「熱中症だけじゃない!」暑さで増える“意外な病気”のリスク。全国規模の膨大な入院患者のデータをもとに東京科学大が研究

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
将来の気候変動と人口動態を考慮した、暑さ由来の喘息入院数の予測
将来の気候変動と人口動態を考慮した暑さ由来の喘息入院数の予測。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示す最も気温の上昇幅が大きいシナリオに基づき、2010年代(2011年から2019年)を基準とした比率を示す。実線が予測値を示し、灰色の領域がその95%信頼区間。研究は藤原教授以外に同大学の公衆衛生学分野の西村久明助教、医療政策情報学分野の伏見清秀教授、ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院のBrian S. Schwartz教授らによって行われた(出典:東京科学大学プレスリリース『暑さが引き起こす喘息リスクの増加を解明』)

研究によると、世界の気候科学者が試算した気温上昇シナリオの中で最も高くなるケースをもとに、2090年代には暑さを原因とする喘息の入院患者が、2010年代と比較して最大で4.19倍に増加する。

医学の立場から気候変動に提言すべき

藤原教授はかつて、細分化された日本の公衆衛生分野で、社会的意義がある研究が十分にできなかったと振り返る。転機となったのが約20年前の米ハーバード大学への留学だ。そこでは、日本にない社会疫学や気候変動と疾病の関係について研究することができた。

公衆衛生や疫学の分野では「予防原則」という言葉があり、これは因果関係が完全に証明されていなくても、健康被害の可能性がある場合には「予防的な措置を講じるべきだ」という考え方である。

同様に近年の異常気象が、確実に気候変動の影響と立証されなくても、その可能性が高いならば、「気候変動の根本原因とされる温室効果ガスの削減を積極的に進めるべきだ」と藤原教授は強調する。さらに「医療関係者も気候変動問題について、もっと声を上げるべきだ」と主張する。

病気と環境の相関性を表したイメージ図
病気は人間を取り巻く社会環境だけでなくその外側にある地球環境によっても引き起こされる (画像:藤原教授の見解をもとに筆者作成)

それに対して「『専門外が口を出すな』というのは、いかにも昭和的だと思う。目の前に危機的な状況があるので、皆で知恵を出すべきだ」と語る。その中で、「われわれ公衆衛生分野が橋渡しをすべきだ」と意欲を示す。

気温上昇は多くの人の健康に悪影響を及ぼすが、その影響は均一ではなく、低所得層がより被害を受けやすいといった不平等も生じさせる。

また人間活動がもたらす気候変動に対し、世界中の気候科学者などが警鐘を鳴らし続ける一方、無関心だったり、懐疑的な立場を取る人々も依然として存在する。

藤原教授らが進める研究が、1人ひとりの健康と気候変動への関心を高め、脱炭素社会に向けた行動変容を促す「触媒」となるのか、今後のさらなる研究が注目される。

この記事の画像を見る(6枚)
東京科学大学
東京都文京区湯島にある東京科学大学のキャンパス。同大学は東京医科歯科大学と東京工業大学が統合し2024年10月に誕生した(写真:筆者撮影)
伊藤 辰雄 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いとう たつお / Tatsuo Ito

大学卒業後、ロイター通信社、ウォール・ストリート・ジャーナルなどで記者として、経済・金融政策、金融市場を中心に30年以上に渡り取材。現在は、フリーランス・ライターとして環境分野を中心に取材執筆するほか、会社四季報で食品関係の企業を担当。2024年3月上智大学大学院・地球環境学研究科修了(環境学修士)

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事