今夏の記録的猛暑は「温暖化」なしで起きなかった 今田由紀子・東大准教授に聞く、最新研究の成果

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今夏の日本はかつてない猛暑に見舞われた。写真は2023年8月10日の石川・金沢駅前(時事)
今年の夏、日本はかつてない猛暑に見舞われた。6~8月の全国15地点の平均気温は平年より1.76度も高く、1898年の統計開始以来、最高値を記録した。この猛暑はどういったメカニズムで発生したのか。気象庁気象研究所と協力して今夏の異常気象の原因を分析した東京大学・大気海洋研究所の今田由紀子准教授は、「地球温暖化の影響がなければ起こりえなかった現象だった」と説明する。


――今田さんを中心とした「文部科学省気候変動予測先端研究プログラム」の研究チームは9月19日、「令和5年夏の大雨および記録的な高温に地球温暖化が与えた影響に関する研究」の速報を発表しました。気象庁気象研究所の協力に基づく今回の研究結果によれば、今年7月から8月にかけての記録的な高温は「地球温暖化の影響がなかったと仮定した状況下では起こりえなかったことがわかった」「今年に入って発生したエルニーニョ現象等の影響と地球温暖化の影響が共存する状況下では1.65%程度の確率で起こりえたことがわかった」となっています。

7月23日から8月10日にかけての、日本上空の約1500メートルの気温の分布を調べてみたところ、平年より約2度も高くなっていた。その発生確率1.65%というのは50年に1度よりも低い確率で発生することを意味しており、今年夏の記録的な猛暑が極めて珍しい現象であることは間違いない。

今年のように、南アメリカ・ペルー沖の海水温が高い状態が継続するエルニーニョ現象が起きているときには通常、西太平洋では海水温が低い状態であることが多い。ところが、今年の場合は前冬のラニーニャの影響が残っていたことなどが影響して、 同海域で海水温の高い状態が続き、そこで発生した上昇気流の一部が日本付近で下降したことで高温になる要因の1つが生まれた。

図1 今年7月下旬から8月上旬にかけての高温イベントの発生確率。黒破線の値を超えた面積が今回の高温イベントの発生確率を示す(出所:令和5年夏の大雨および記録的な高温に地球温暖化が与えた影響に関する研究)

加えて大気でもいくつかの偶然が重なった。この時期に台風6号が発生し、日本列島の南側を通過するときに上昇気流をより強める働きをし、猛暑をより強くした。また、ジェット気流の蛇行の仕方が、日本付近の高気圧の張り出しを強める方向に作用した。

これら大気や海洋に関するいくつかの偶然の要因が重なり、今夏の猛暑につながった。

世界の異常気象と地球温暖化の関係

――今年夏は、ハワイ諸島や北アメリカ、地中海沿岸での山火事、リビア東部での集中豪雨など世界各地が深刻な自然災害に見舞われました。日本でも記録的な猛暑が続いたことから、地球温暖化の影響が地球規模でいよいよ本格化してきたと考える人が多くなっているように感じます。

私たちは「イベント・アトリビューション」という研究手法を用いているが、ヨーロッパや北アメリカ西岸での高温の事例については、地球温暖化による影響がはっきりと見て取れた。

気象の状況を見てみると、ジェット気流が蛇行してこれらの地域では猛暑になりやすい条件が重なっていた。ジェット気流が影響を与えているという点では日本の猛暑とも似ている面がある。大陸による影響との相互作用もあるので一概にすべてが同じ要因であるとは言えないが、地球温暖化の影響があることは間違いない。

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