今夏の記録的猛暑は「温暖化」なしで起きなかった 今田由紀子・東大准教授に聞く、最新研究の成果

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――イベント・アトリビューションとはどのような研究手法ですか。

ここでいうイベントとは、異常気象のこと。アトリビューションとは「……のせいにする」という意味で、この場合は「地球温暖化のせい」であるということ。それを、シミュレーション研究によって証明しようというのがイベント・アトリビューションという手法だ。

いまだ・ゆきこ/東京工業大学研究員、気象庁気象研究所主任研究官などを経て、2023年4月から東京大学大気海洋研究所准教授。大気モデルや大気海洋モデルを用い、数年から数十年規模の気候変動のメカニズム研究などを行っている(撮影:筆者)

たとえば、地球温暖化が今年夏の異常な猛暑などのイベントにどのくらいの影響を及ぼしたかということを、定量的に示すことを目的にしている。

私たちの研究では、「地球シミュレーター」と呼ばれるスーパーコンピューターを用いて大気モデルを使ったシミュレーションを実施している 。

そこに、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量やエアロゾルなどの大気汚染物質の変化といった人間活動による影響、エルニーニョ現象など海洋の状況などを「境界条件」として与え、いろいろな偶然が起こるような状態で、たくさんの数のシミュレーションをしている。

スピーディーな発表はなぜできたのか?

――今夏の猛暑についてはどうだったのでしょうか。

数多くのシミュレーションを実施すると、たとえ今夏に関連した境界条件を当てはめても、さまざまな偶然が重なることで冷夏になるケースも出てきた。そうした中で地球温暖化の影響を踏まえて今夏の猛暑が起こる確率がどのくらいあったかを「発生確率」として数え上げてみたところ、約1.65%という数字が出てきた。これがイベント・アトリビューションによる分析結果だ。なお、温暖化がなかった場合の発生確率はゼロとなった。

――今回の研究結果は、異常気象が起きてからあまり時間を置かずに発表されたことも特筆されます。

シミュレーションを実施するためには、海洋の状態など観測データが必要である。しかし実際の観測データが発表されるのを待って、それから実験の準備をしていたのでは研究結果の発表までに時間がかかり過ぎてしまう。それでは社会のニーズにマッチしない。

そこで、境界条件については観測データの発表を待つのではなく、気象庁が発表している3カ月予報から境界条件に該当するデータを拾い出して、シミュレーションに用いている。そうすると2カ月くらい早く、分析結果を発表できる。今回の発表ではこうした予測型のイベント・アトリビューションという新しい手法を用いた。

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