世界市場混乱の真犯人は資源バブル崩壊だ 中国経済の質的変化がもたらす真の意味

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さて、今回の危機の真犯人は誰か。それは、資源バブル崩壊に尽きる。米国のシェールガス関連ジャンク債市場の崩壊を核に、財務的なダメージを受けたファンドを中心とする投資家たちが流動性確保のためにあらゆるリスク資産を静かに売却し、ポジションを静かに閉じようとした。それを狙った仕掛けによって、世界の株式市場は混乱したのである。

成熟国ではもっともバブルが膨らんでいた日本市場がもっとも大きな影響を受け、調整局面に入っていた米国は震源地であるにもかかわらず、日本よりもダメージが小さかった。そして、今年利益機会の少なかったヘッジファンドのCTA(商品投資顧問)などが、この機会に乗じて派手に動いていることが振幅を大きくしている。

欧米の投資家のセンチメント(市場心理)はかなり悲観的になっている。悲観こそチャンスであるから、真の投資家たちは投資機会を狙っている。しかし、彼らは流動性など関係のない市場、商品を狙っているから、上場株式の混乱はまだ続くであろう。

重要なのは、長期的な実体経済の見通しだ。今回の危機が本当に怖いとすれば、短期の乱高下ではなく、長期的な世界経済の姿だ。中国実体経済の減速が危機の背景にあるとすれば、投資家たちの流動資産への値付けの乱高下、上場株の混乱に留まらず、世界経済もダメージを受ける。

資源価格暴落は中国経済が転換した象徴

しかし、中国経済は減速するものの順調である。そして、中国政府は減速に対する対策を取らないだろう。減速しなければいけないからだ。ここは中国の虚偽でないGDP増加率はマイナスではないかと疑っている人々の見方と異なるところだが、減速は致命的なものではない。

高度成長の量的な拡大から、成熟経済における質的な充実へ。中国経済は量から質への転換が進んでいる。経済構造、経済の発展構造が変わり進歩している。政府もその流れを止めようとはしない。為替は減価を狙わず、IMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)入りを目指している。短期的にはGDP 増大に不利でも、普通の通貨になるための政策を取り続けるだろう。

中国は生産基地から巨大な消費市場となり、経済、生産、消費が質的に高度化していく局面に入った。中国をコストの安い生産基地として利用してきた企業にとっては中国の終わりであり、単なる需要不足解消のために利用してきた輸出企業も、中国依存では立ちゆかなくなる。

しかし、教育水準が高く質の高い労働力を多数抱えた生産拠点となり、サービスを中心とした成熟消費の市場となる中国は、内需サービスを提供する世界企業にとっては異なる様相を見せる。中国企業との提携を狙うM&A、ビジネスモデル投資を行う上で最大の市場となるのである。

中国市場を長期的視点から狙ってきた企業にとって、中国経済の変化は大きなプラスだ。収穫期に入ることを意味するからだ。一方、過去の中国の量的な拡大に依存してきた企業は大きな転換を迫られる。その象徴、先駆けとなったのが資源価格の暴落であり、資源国通貨の下落による資源依存国経済の衰退であり、資源依存による内需バブルが起きていた新興国経済の停滞なのだ。世界経済において、中国市場はこれまで以上に重要な存在となるだろう。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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