一方、この4月から実現する見込みの追加関税の金額は、6000億ドル規模に達すると試算される。これはアメリカのGDPの約2%に相当する。
関税実施でもアメリカの赤字はあまり減少しない
関税引き上げによって、大幅な増税政策が実現することになり、企業・家計部門の所得を大きく減らすので、アメリカの2025年の成長見通しを筆者は大きく下方修正した。常時アメリカの高関税の状況が続けば、世界の貿易活動を停滞させて、グローバルに展開する世界中の大企業の行動を、大きく制約するだろう。
確かにアメリカでは1980年代以降、経常収支の赤字が続いているものの、先進各国の中では最も高い経済成長を実現した。ただ、トランプ大統領らは、経常赤字や貿易赤字によって、アメリカ経済が衰退しているという思い込みを抱いているようだ。10%を超える各国への関税賦課算出の根拠として、アメリカは各国に対する貿易赤字を輸入額で割った数値を用い、それに基づいて大幅な関税を賦課しているとみられる。
では、相互関税政策でアメリカの経常赤字や貿易赤字は目に見えて減少するのだろうか。実際には関税率を大きく引き上げて、海外からの輸入を減らそうとしても、それは難しい。
アメリカが貿易赤字であるのは、自動車産業などの競争力が低いこと、そして消費が堅調なので輸入の高い伸びが続いていることが大きな要因だ。そして、貿易赤字が続いているからこそ、アメリカの家計は今まで消費水準を高められたというのが実情である。
仮に、関税引き上げで貿易赤字が減るとすれば、アメリカの消費を抑制して、輸入を減らすことによってでしか実現しない。これは同国の家計にとって、極めて痛みが大きい選択肢だ。
政府が関税率をどの程度上げるかわからない情勢では、外国の企業だけではなく、アメリカの企業にとっても不確実性が極めて高い状況なので、企業による設備投資の多くが先送りされる。トランプ政権の高関税政策が続けば、成長産業と期待されたAI関連の設備投資拡大に期待するのはかなり難しくなる。
また、トランプ政権が掲げる大幅な関税賦課は、貿易収支の改善はもちろん、肝心のアメリカの製造業を復活させる効果もない。経済的にはアメリカ企業の競争力を衰退させる、経済合理性に乏しい「自傷的政策」と位置付けられる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら