では、トランプ政権は、なぜこうした政策を採用したのか。上記のような事情をまったく理解せずに、中西部の「ラストベルトの復活」という妄想を実現することが、自らの政治的な使命であると思い込んでいるのかもしれない。あるいは、経済成長を軽視してでも、安全保障が最優先事項なので、貿易活動を大きく抑制した方が「アメリカが偉大になる」と認識している可能性もある。
4月3日以降、アメリカを中心に世界各国の株式市場が乱高下を繰り返している。これは、割高になっていたメガテック株などがPER(株価収益率)などでみたバリュエーション(企業価値評価)調整をしたというよりも、アメリカを含めて世界経済全体が失速して、企業利益が減益に転じるシナリオが現実味を帯びてきたことで説明できる。自傷的な政策に舵を切ったトランプ政権の対応が、世界経済の大不況をもたらすという帰結を適切に織り込んだ値動きだろう。
アメリカ株市場が乱高下する中で、トランプ大統領は、前出のように4月9日には相互関税の上乗せ部分について、一部の国・地域に90日間の一時停止を許可すると発表した。金融市場の混乱をうけた対応とみられるが、時間をかけて、結局は今後20%への関税率引き上げは実現するのではないか。
深刻な景気後退シナリオまでは織り込んでいない市場
アメリカ経済は、4~6月にほぼゼロ成長に失速すると筆者は予想している。労働市場にも悪影響が及び、失業率は4%台後半に大きく上昇し始めるだろう。経済活動の変調を目の当たりにして、夏場にかけてトランプ政権は自傷政策の大幅な修正を余儀なくされるかもしれない。
また、大幅な株安をうけて、FRB(連邦準備制度理事会)が利下げに転じるとの観測も高まっている。ただ、2020年のコロナ禍直後ほどの経済活動の大収縮が起きない中で、FRBが利下げに転じるには、失業率上昇などのハードデータを確認した後になるだろう。FRBが利下げに転じる時期は早ければ6月会合が想定されるが、市場参加者が期待する政策転換が、早期に実現する可能性は低いと筆者は身構えている。
もしトランプ政権が、大幅な株安などをうけても、なお高関税政策を修正しなければどうなるか。その場合はアメリカ経済はいよいよ深刻な景気後退に陥り、世界経済全体がマイナス成長に至る大不況に至るだろう。アメリカ株をはじめ世界の株式市場は大きく下落したが、このシナリオまではほとんど織り込んでいないようにみえる。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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