「武力統一」を記した台湾の中国人妻はなぜ台湾から強制退去させられたのか、台湾内部の根深い対立と言論の自由の問題
この退去命令をきっかけに、台湾で亜亜さんに対する激しいバッシングが起きる。「家族そろって中国大陸に帰れ」「『陸配』を殺せ」といった言葉が飛び交う。
また亜亜さんが夫や支持者とともに移民署へ陳情に訪れると、群衆が彼女たちを取り囲み、罵声を浴びせた。さらに、台南市のある廟に、亜亜さんの娘の写真に呪いをかけたものまで見つかった。
結局、「私は台湾を愛し、大陸も愛している。私は台湾で生活し、私の子どもたちは台湾にいる。私の家は台湾にある」「私の2人の息子は将来、(台湾の)兵役に行かなければならない、私は彼らを戦争で死なせたくない」と言い残して2025年3月25日、夫と子どもを残して台湾を離れた。
「頼17条」の波紋
「亜亜」騒動をきっかけに、バッシングはインフルエンサーに対するだけにとどまらず、人口2300万人余りの台湾に36万人住むという「陸配」への差別を、広く引き起こした。
本来は台湾と中国大陸との間の理解を促進する役割を担うはずの「陸配」が、不安におびえているというのだ。就職の内定が取り消され、侮辱的な扱いを受けた「陸配」女性もいたという。
こうした台湾での「陸配」へのヒステリックな反応は、台湾の現在の政治的な雰囲気と大きく関連している。前の蔡英文政権は、中国大陸に対して批判的な態度を続け、双方の関係は悪化を続けていた。
2024年に頼清徳総統が引き継いでからは、さらに中国大陸批判を強めていた。こうした中で頼清徳総統は2025年3月13日、中国大陸を「海外の敵対勢力」と定義したうえで、17条からなる政策を発表した。「頼17条」と呼ばれるこの政策は、中国大陸による台湾の併呑に断固として反対するためだという。
この中で、両岸間の交流を利用して中国大陸が台湾の人々の国家アイデンティティーに脅威を与えていると主張し、交流を厳しく審査する方針を示した。さらに、中国大陸への旅行のリスクを強調した。
とくに注目されたのは、すでに廃止されていた軍事裁判制度の復活を主張したことだ。対象となるのは現役軍人で、軍人のスパイ事件が頻発していることに対応するのが目的だが、かつての40年近くにも及ぶ戒厳令の復活を思わせる主張だった。
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