AIにはできない"良質なお節介"を育てる「ユニークな学園」の日常風景、「頭の良さだけではどうにもならないことがある」《東京・自由学園》
昼食後に始まる自治のための活動も面白い。自由学園では、キャンパスの日常的な整備を生徒たちで行っている。芝生の広場にいたグループに何をしているのかと聞いてみると、機具を使って地中に穴を開けているという。

芝生は植えてから数年すると根が密集してしまい、生育が悪くなる。穴を空けることで空気の通り道が確保され、微生物の活動も活発化、枯れ葉や古い根の分解も促進され、新たな芝生の育成に役立つのだという。
これは教科学習でいうところの生物の学びにもつながる。こうしたキャンパスの保全活動を通して生徒たちは生きた学びを受けているのだ。
「自由学園の出身者はとにかくよく動く」という話を聞いたことがあったのだが、周りを観察し、必要なことを察して行動できる力はこうしうた学園生活で身につけた生活力からくるものだと確信した。
頭の良さだけではどうにもならないことがある
全体を見渡して自らのやるべきことをする力は無論、社会に出てからの仕事にも役立つ。自身も同学園の卒業生だという更科幸一学園長は、こうした教室以外の場所での活動が人間力を養う実践場になっているのだと説明する。

「教室の中での教科の学びは頭を使う学習であっても、心を使うことは少ないと思います。アクティブラーニングで対話をしようという場合も、違う意見を持つ子がいても、“そういう考え方もあるよね”と、ある意味、頭の処理で済ませることができます。
ところが、教室を離れた生活の場ではそうはいきません。心が伴うことが多い。心が伴うので、厄介なこともある。でも、こうした厄介や不便を学んでほしいという思いもあります」(更科学園長)。
人との関わり方は頭を使う学習だけでは学べない。テストで点を取ることは一人でもできるが、世の中で生きるためには頭の良さだけではどうにもならないことがある。

同校には寮もあるため、寮生は通学生以上に人との関わりの面倒さを経験する。
「寮では朝ご飯も生徒が当番制で作るんです。1学年2人ずつくらい、合計10人程度の班で回すのですが、初めの頃は仕事の分担をめぐっていざこざもありました。皿洗いをしない人がいたりすると、『おまえやってないだろ!』って、結構言い合いにもなりました」
こう話すのは寮生の中原樹さん。声を荒らげてしまうのは心が伴っている証拠。生身の人間同士の摩擦の中で、声をかけるタイミングやかけ方、協力しあうことを学んでいく。
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