ウクライナ戦争の停戦交渉の裏側(上) アメリカは「ウクライナの同盟国」から「ロシアのための調停国」に変わった

✎ 1〜 ✎ 188 ✎ 189 ✎ 190 ✎ 191
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

⑤「トランプ大統領の黒海での運航の安全性に関する提案にプーチン大統領は好意的に反応し、両首脳は合意の具体的な詳細を策定する作業を行う協議を始めることで合意した」。この合意に基づき、3月23日〜25日までサウジアラビアのリヤドでアメリカとロシア、ウクライナの3カ国が協議を行った(この協議については後述する)。

⑥3月19日にロシアとウクライナは相互に175人の捕虜交換を行うことで合意した。

アメリカも声明を出しているが、その内容はクレムリンの発表と比べると極めて簡単なものであった。外交的な表現を除く具体的な記述は「両首脳はエネルギーのインフラ攻撃の停止、黒海における海上停戦と、全面的な停戦と恒久平和の実現に関する技術的な交渉を行うことで合意した」という一文だけである。

部分的停戦に合意しても何も変わらない

プーチン大統領の戦略は極めて巧妙である。停戦には反対しないが、停戦を受け入れるには多くの条件があると主張している。その条件は、ウクライナが受け入れられないものばかりだ。ルビオ国務長官が投げたボールは、巧みに打ち返された。その戦略は相手がとてものめないような「根本原因」での譲歩を迫って、相手を消耗させ、自らの目標を達成するというものだ。

首脳会談が終わった直後、ロシアはエネルギー施設と関係のないウクライナの都市と民間人に対して無差別攻撃を行った。戦線での戦闘は止まることなく、現在も多くの兵が死んでいる。3月16日にルビオ国務長官は「とにかく銃撃を止めることだ」と語っているが、その言葉は虚しく響いている。

それどころか、3月18日の『Politico EU Confidential』は「Trump fails to get Putin to stop the shooting (トランプはプーチンに銃撃を止めさせなかった)」で「トランプ大統領とウィトコフ米特使は停戦合意を得るための条件を議論しているが、他方でトランプ大統領とプーチン大統領は“公式な”和平交渉の前に(ウクライナの)“土地”と“電力施設”、“ある種の資産の分割”について話し合っている」と、衝撃的な指摘をしている。

3月27日、ゼレンスキー大統領はロシアがヘルソン市のエネルギー施設を攻撃し、停戦協定に違反したと、ロシアを非難した。またAP通信は3月29日に、ロシアはウクライナとの和平交渉の立場を強化するために、今後数週間で新たな多面的な攻勢を開始し、占領領土を拡大する準備をしていると報じた。「30日間の停戦協定」が成立しても、何も変わっていない。

後編の「親ロのアメリカならいないほうがマシ? 軍事強国ウクライナを軸に新安保システムの構築もありうる」へ続きます。
中岡 望 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』(中公新書)。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事