老人ホーム”で繰り広げられる≪人生最後の恋愛≫をかけた施設と入居者の攻防。職員歴10年の著者が見た”83歳の男と81歳の認知症の女”の実話

人間、生きているかぎり、人のやさしさや肌の温かさを求めるものだろう(写真:プラナ/PIXTA)
老人ホームでも入居者同士が恋愛関係になることがあります。
しかし、日本の老人ホームには、入居者同士の恋愛を認めていない施設もあります。
本記事では、10年間老人ホーム職員として働いた川島徹氏の就労記『家族は知らない真夜中の老人ホーム』より一部を抜粋し、認知症の入居者同士の恋愛と、それを阻止しようとする施設との間で板挟みになる著者の奮闘記をお届けします。
83歳の男性が恋をした
「森山さんとサヨさんを、ふたりきりにしないでくださいね」
施設長の吉永清美さんが言った。
足が不自由で車椅子を使っていた森山栄二さん、83歳。福岡のほうで小さな運送会社を経営していた人である。身長はそれほどなかったがちょっと骨太の体で、頭はきれいに禿げていた。
緑内障の眼薬を差すとき、剝き出しになった眼球がギョロギョロと動くと気味悪いものがあった。が、気さくでいかにも下町の社長といった感じだった。茶を大きな湯飲みで音をたてて啜っておられた。
男性が入居すると聞いたとき、それまで男ひとりで気楽に振るまっていたイレズミ男の上村辰夫さんとの関係が気になった。
女同士でも衝突するのだが、男同士はもっと衝突しやすい。
女同士の衝突は感情的なこぜりあいであるが、男同士は突然声を荒げ手足が動く。が、施設長の吉永さんはそのふたりを隣あわせに座らせた。
わたしは心配したが意外とふたりは朝夕の挨拶などなごやかにやっておられた。最初から隣あわせにした施設長のやり方がうまくいったようだった。
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