2022年9月、ギリシャはNATOに書簡を送り、ヨーロッパは大陸でふたたび戦争が起こる危険にさらされている、と警鐘を鳴らした。
ギリシャ政府は、問題となっている島々に関してモントルー条約がトルコよりも自国の立場を支持していると考えていることから、このトルコとギリシャの対立によって、東地中海の出来事が黒海のパワーバランスと強く結びつくこととなった。
ウクライナ領の黒海北部沿岸地域の大部分をロシアが支配しつづけるというシナリオが、戦争の終結点となるか膠着状態のまま固定化すれば、ロシアは天然ガスが豊富な東地中海に近づくこととなる。
トルコが自国のために黒海におけるロシアの立場を利用する危険性を認識してか、ギリシャの首相は2023年1月、ヨーロッパのどの国よりも多くのレオパルド戦車を保有しているにもかかわらず、自国の防衛に不可欠との理由で、ウクライナへのレオパルド戦車の供与を拒否した。
ミラン・クンデラの予言
2022年6月に黒海を中心とするもう一つの東方拡大に関与したEUは、新たなトルコ問題に向き合わなければならなくなった。ウクライナにEU加盟候補国の地位を認めるだけでも、EUにとっては深刻な問題である。
ウクライナは戦争前からすでに生活水準がヨーロッパ諸国の平均をはるかに下回っていたことから、その国を経済的に再建するには莫大な資金が必要となる。係争中の国境を抱える国はむろんのこと、ロシアと陸海の国境を接する国にとって、EUに加盟するにはNATOへの加盟も必要であると思われる。
しかし、すべてのEU加盟国がこの動きを支持するか、またトルコが実際にそれを受け入れるかはまったくわからない。
ウクライナがEUやNATOに加盟する見込みがあるかどうかにかかわりなく、ロシアを相手にしたウクライナの民族的強靭性は、それ自体が地政学的にヨーロッパを揺るがすものである。
チェコの小説家ミラン・クンデラは1984年のエッセイのなかで、「ヨーロッパの偉大な民族の一つであるウクライナ民族は〔中略〕徐々に消滅しつつある。そしてこの巨大な、ほとんど信じられないような出来事は、世界がそれと気づかぬうちに起こっている」と述べている。
それから7年後にウクライナは独立したが、西ヨーロッパの人びとにはウクライナの歴史が部分的にしか伝わらなかった。
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