ロシアに無知だったEUはソ連のように自壊する ロシアを民主主義の反面教師としてきた欧州のツケ

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西欧はロシアが攻めてきたと考えるが、ロシアは西欧に自分から攻め入ったことはない。西欧はロシアの本質に目をそらしてきた(写真・barks/ PIXTA)

チルチルとミチルの『青い鳥』で有名なベルギーのメーテルリンク(1862~1949年)の戯曲に『盲目の人たち』(Les Aveugles)という作品がある。その1つは、こういう話だ。

ある盲目の老人が、「誰か部屋に来ていないか?」と何度も部屋の中の人たちに尋ねるのだが、そこにいるすべてのものが、「いや誰も来ていない」と答える。老人は、いや部屋には誰かいると不安げに何度も問いかけるが、また「誰もいない」と答える。

メーテルリンクの戯曲『盲目の人たち』

老人は娘の死の予感に苛まれ、誰か知らせに来ていないかと尋ねたのである。結局、老人の予感通り、それから数時間後、娘の死を知らせに1人の人物が現れる。

フランスで、シルヴィー・カウフマンという女性ジャーナリストが書いた『盲目にされた人たち―ベルリンとパリはなぜロシアに道を自由に開いたのか』(Les Aveuglés,Stock,2024)という本が、2024年初めにフランスでちょっと話題になった。

この本の主題は、この盲目の老人のように不安にならずに、「ロシアがヨーロッパに攻めてくる」などという予感を誰も感じなかったのはなぜか、という話だ。

本書はゴルバチョフ時代の1986年、反体制理論物理学者でノーベル賞受賞者のサハロフ博士が、流刑されていたゴーリキー市(現在のニジノノブゴロド市)から釈放されるところから始まる。

それからソ連の崩壊、そしてロシアの成立の時代が来る。その後のロシアは「西欧に近づき、西欧化するものだ」という予感に、ヨーロッパは満ちあふれていた。

ところが、実際のロシアはどんどん西欧の期待を裏切っていく。西欧は、ソ連崩壊と東欧のヨーロッパ化のユーフォリア(幸福感)に包まれた中で、ロシアが西欧に「われわれはヨーロッパではない」という最後通告を突きつけることに、誰も気づかなかったという内容が記されている。

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