「国家の役割」を最小化すると最後はどうなるのか 保護されるのは「人身と所有に対する権利」だけ

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具体的に見ると、イングランド議会が国王チャールズ1世に議会の同意なしに課税できないように求めた「権利の請願」(1628)やピューリタン革命(1642〜49)、名誉革命(1688〜89)などがあって、社会的には内戦状態が続いていたことが分かります。

こうした危機的状況に対して、原理的な解決策を提示するのがホッブズの『リヴァイアサン』といえます。

そもそも、タイトルの「リヴァイアサン」とは、どんな意味なのでしょうか。旧約聖書に登場する怪物に、「レヴィアタン」がいるのですが、これは海中で最強の生物とされ、中世以降は悪魔のように見なされてきました。ホッブズはこの怪物を、人造人間として描き、「人間に平和と防衛を保障する『地上の神』」と考えたのです。

ホッブズが出発点とするのは、人間は「自然」によって平等につくられた、という近代的な人間観です。ここから、どのように国家(コモンウェルス)を形成するか―これが『リヴァイアサン』の中心問題です。

「万人の万人に対する闘争」こそが自然な状態

ホッブズのユニークな視点は、「人間は戦争と呼ばれる状態、各人の各人に対する戦争状態にある」と考えることです。これは一般に、「万人の万人に対する闘争」と表現されます。ホッブズとしては、これが人間の「自然状態」だと見なすのです。

こうした「自然状態」では、戦争が絶えず、人々は安心して生活できませんね。そこで、平和を達成し、各人が安心して生活できるために、互いに同意できるような法を形成する必要があるのです。それをホッブズは、「自然法」と呼んでいます。

このとき重要なことは、自然法が成立するためは、各人が万物に対する権利を放棄しなくてはならない点です。こうして、各人の権利を放棄する(国家に譲渡する)ことによって、国家が可能になるわけです。

ホッブズは、この国家を1人の人格のように見なし、「リヴァイアサン」と呼ぶのです。

この国家は、各人から独立した絶対的な主権をもつにいたります。

技術によって、ラテン語の「キウィタスCIVITAS」に当たり、〔われわれの言葉では〕「政治的共同体COMMONWEALTH」あるいは「国家STATE」と呼ばれるかの偉大な「リヴァイアサンLEVIATHAN」が創造されるからである。このリヴァイアサンは、自然人よりもはるかに巨大な姿をしており、力もずっと強く、自然人を保護し防衛するように意図されている。(『リヴァイアサン』)
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