いまこそ出番 日本型技術経営 現場の知恵は企業の宝 伊丹敬之、東京理科大学MOT研究会編著 ~世界で生きる経営のありようを探る
現場の「技術というフィールドを起点に」、日本企業の経営のありようと「世界で生きる道」を探った本である。
たとえば、1980年代の初期から、CAD/CAMを導入した新潟の会社は、個人技をもつ「熟練作業者のシステム化への認識」を高める苦労などを重ね、いまやソフトウエアの開発・販売を行うまでになっていると紹介されている。それは経営者・リーダーの理念による、小さな部分から全体のシステム化までの技術経営の成果だ。
あるいは大震災のとき多くの工場で設備が破損したが、本書の描く、金属を溶融させて金型を成形する工場では、停電で溶融炉が止まり、金属が途中で固まり流れなくなり、設備業者はいったん溶鉱炉を解体する必要があると判断したという。しかし現場の人たちは、「工程をバーナーで炙るという荒技で」再起動に成功した。工夫という日常的なカイゼンの成果だった。
酪農乳業は「土地に縛られた」国内型産業に見える。事実、搾乳から消費までの間に品質を劣化させないために、殺菌・加工から運搬を完結させるシステムは時間との闘いだ。釧路市から日立市を品質を維持しながら20時間で運ぶ専用の船まで開発されている。それは長い日本列島という地理的、気象的条件に対応した技術開発の積み重ねの結果だ。