多世代が集う「ボーダーレス福祉施設」に見る未来 グッドデザイン金賞受賞の「深川えんみち」
「今は保育園にしても高齢者施設にしても、国がしっかり制度を整えていますよね。当然、よい面はありますが、細かな規定をクリアし、行政の評価を気にしながら施設を運営するとなると、どうしても受け身になり、リスクになり得る要素を排除しがちです。おのずと『関係者だけで安全にことを済ませていこう』という発想になっていきます。
そうして建物や玄関を独立させ、内部を閉ざせば一見、セキュリティ上は安心でしょう。でも、地域や世代間の交流が希薄になるだけでなく、施設自体の孤立につながります。
子どもを分断された状況下に置いておいて、後になって”多様性”を教えるのは矛盾しているし、長い目で見ると非合理的。『私たち、もっとよいかたちで影響し合っていけるよね』と、ずっと思っていたのです」(押切さん)
自分たちでつくり、育んでいく“余地”のある場所へ
「まこと地域総合センター」の保育園で、子育て支援アドバイザー兼保育士として働いていた竹内陽子(たけうち・ようこ)さんも同じ思いだったといいます。
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「いつのころからか保育施設が保護者から“サービス事業”だと受けとめられ、保育業界に『とにかくトラブルを起こさないように』というしがらみが生まれるようになったと感じます。
これは他園で聞いた話ですが、ひとりの親御さんから苦情があっただけで、系列の十数の保育園で、発端となった活動を見合わせる例もあるようです。
でも本来、子どもたちのいる環境は、保育施設と母親・父親らとが手を取り合ってつくるもの。そのことで、大人も育てられていくものだと思うのです。逆にいえば、他人に任せきりにすることで、自分たちが豊かになるチャンスを逃している。
学童保育クラブにしても高齢者施設にしても、福祉施設が地域でできることは、ものすごくたくさんあるはずです。保護者をはじめ、地元のみなさん、まちに遊びに来た人たちもが利用できる、オープンな施設が求められていると思いました」(竹内さん)