半導体エンジニアが半導体工場の建て方を超解説 TSMCもアメリカつまづいた工場建設の難しさ

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世界で建設が相次ぐ大規模な半導体工場。その建設の複雑さを解説します。

建設中のラピダス工場
最新の半導体工場建設はその地域での一大工事で、遠くからも多数のクレーン群が確認できる。写真は本文と無関係の北海道で建設されている半導体工場(写真:Bloomberg)
昨年(2024年)のゴールデンウィークに「伝説の半導体エンジニアによる工場解説ツアー」と称して、半導体工場の現場や厳しいセキュリティーの実情を説明した。今回は一般の方が知る機会がなかなかない半導体工場の建設に関して紹介したい。そこで架空の国策企業フェスティナ・レンテ社(ラテン語で「ゆっくり急げ」を意味する格言)がパイロットライン(商業化前の生産ライン)を稼働させるまでの過程を追いかけて解説しよう。
※本記事は2025年3月2日6:00まで無料で全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。

フェスティナ・レンテ社は国策企業といえる会社だ。AIサーバーやデジタルインフラ網を自国内で構築するため重要な役割を担うことが期待され、先端ロジック半導体を製造するための半導体ファウンドリ(受託製造)企業として設立された。

フェスティナ・レンテ社が建設を始める初の半導体工場はアメリカのテクノロジー企業、JCN社の技術をベースにしている。第1工場は300mmウェーハ換算で月産最大2万枚の製造能力を予定している。

とても大事な用地の選定

熊本県菊陽町に建設されたTSMCとソニー、デンソーなどによる合弁会社JASMの多大な経済効果を見て、多くの地方自治体がフェスティナ・レンテ社の半導体工場に対する激しい誘致合戦を行った。ここで半導体工場誘致に必要な条件を整理してみよう。検討すべき内容は多いがここでは主なものを挙げる。

まず必要なのは当たり前だが土地である。近年の半導体工場は4棟や6棟をまとめて効率的に運営する大規模工場が主流だ。そのため将来、拡張が可能な広さが必要である。

南海トラフなど今後発生が想定されている大規模地震を懸念する声もある。ただ、日本のどこに工場を作ろうが地震の影響から逃れられない。これまでに多くの地震を経験してきただけに、建物自身の耐震性や免震性、製造設備などの対応策も半導体業界では確立しており選定する上での大きな制約にはならない。

次に重要なのは豊富な水量である。きれいな水をアピールする自治体も多いが厳密な濾過工程作業を行うため水質が影響することは基本的にない。過去、水質が良い場所に半導体工場が多かったのは事実であるが、「水質が良い=美味しい酒がある」であり、決定権者に酒好きが多かったとの都市伝説も否定できない事実である。

また安定した電力供給も必須だ。最近の半導体工場は1棟で10万~20万kWもの電力を必要とする。過去には2010年12月8日に発生した中部電力の0.07秒の瞬低(瞬時電圧低下)では、東芝四日市工場(現キオクシア四日市工場)が200億円相当の損失を被ったと報道されている。それだけ安定した電力供給は重要なのである。

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