最先端半導体の国産化を狙う「ラピダス」の背景 前史には世界の半導体業界各社の思惑があった

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30年以上、世界の半導体の現場に身を置いて今も現役で活動する半導体エンジニアが日本や世界の半導体政策や業界動向を解説する。

ラピダス IBM 半導体 国産化
ラピダスに技術供与するIBM。ラピダスの前史にはIBMを含む複雑な半導体各社との関係がある(撮影:尾形文繁)

最先端半導体の国産化を目指すRapidus株式会社(ラピダス)が設立されて1年以上が経った。北海道千歳市で工場建設作業が9月に始まり、期待も高まる。一方で、ラピダスが本当に成功するか課題が多く残されているのもの事実だ。改めて設立の経緯やその背景を踏まえて、ラピダスをとりまく課題を解説したい。

米韓企業と絡み合った糸

ラピダス設立の経緯は2019年半ばにさかのぼるとされる。当時、アメリカのIBMが東京エレクトロンの元会長である東哲郎氏に「2nmノード技術を供与したい」と申し出たそうだ。この背景をより詳しく説明する。

ここで登場する会社はIBMとAMDの製造部門がファウンドリーとして独立したグローバルファウンドリーズ(GF)、韓国のサムスン電子の3社である。この3社を含めた関連する企業・団体等の関係図を図1に示し、ラピダスにつながる時系列を下記に示す。

ラピダス 関係図 背景
図1:ラピダスを取り巻く構造は複雑だ(公開情報をもとに筆者作成)
2014年10月:IBMはGFにニューヨーク州の半導体ファブと特許技術を15億ドルをつけて譲渡
2015年7月:IBMは7nmノード技術を使用した半導体チップ開発を発表。開発パートナーであるニューヨーク州立工科大学(SUNY)ナノスケール理工学カレッジ(CNSE)の300mmウエハー対応施設で製造
※このCNSEはIBMが2nmノード技術開発を行い、現在ラピダス社員がIBMと協力して量産プロセスを開発中
2016年2月:GFはSUNYとEUV露光技術を用い7nmノード技術開発を目的とした研究開発センターの設立を発表
2017年6月:IBMは5nmノードに向けたGAA(Gate-All-Around)構造技術を発表
2018年8月:GFは7nmノード技術開発を無期限延期
2018年12月:IBMはサムスンに7nmノード技術を使用したPower10チップの製造を委託
2019年4月:サムスンは5nmプロセス開発を完了
・2019年半ば:IBMは東京エレクトロンの相談役だった東氏に2nmノード技術供与を打診?
2021年5月:IBMは2nmノード技術を発表
2021年12月:IBMはサムスンに5nmノード技術を使用した半導体チップの製造を委託

この経緯からIBMとGFにある複雑な関係と、IBMの製造委託先であるサムスンとの関係の2点がわかるだろう。まずGFはIBMが開発したはずの7nmプロセス技術を量産に移行することができずに開発を断念したこと。このときのお互いの不信感が現在の互いに訴え合う火種になったのかもしれない。

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