マスク氏と「大ゲンカした日本人」が元リクの必然 人材輩出企業「リクルート」強さの秘密【後編】
理想を追求するエンジニアたちが莫大な開発費を使い、世界に6億人と言われた月間アクティブユーザーが快適かつ安全に使える「最高の言論プラットフォーム」を目指していた。だが、その世界的な影響力とは不釣り合いなほど、収益力は弱く、大金持ちのイーロン・マスク氏に買収された。
理想郷の日本法人を任されていた笹本氏は、「社員を半分に」と聞いたとき、金槌で叩かれたような衝撃を受けたという。
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その日から、世界で最もパワフルかつ変人と言われるマスク氏と笹本氏の戦いの日々が始まる。「人を減らせ、コストを減らせ」と迫るマスク氏に「日本には日本の事情がある」と争う。
だが「世界一のワンマン経営者」に「それは違う」と言い続けるのは、7カ月が限界だった。
「とりあえず、減らせるところまで減らしてみて。マズいことが起きたら、また雇えばいい」
「とりあえずやってみる」がマスク流。リクルートでも「とりあえずやってみろ」と教わった笹本氏もその考え方は理解したが、200人のスタッフを率いる日本法人の社長としては「はい、そうですか」というわけにもいかない。
「それなら私を先に切ってください」
思い余ってマスク氏に迫ったら、「そうだな」とあっさり切られた。ほぼ同時にメールのアクセスを止められた。
「サブスクの退会か?」
あまりのドライさに、開いた口が塞がらなかった。
途切れないキャリアの源泉は「リクルート」での経験
今をときめくマスク氏に、ここまで強く対応できたのは「ツイッターをやめたらいつでもうちに来てください」というオファーが複数あったからだ。実際、2023年5月にツイッター・ジャパンの社長を退任した笹本氏は、次の月にはKADOKAWA、サンリオ、吉本興業ホールディングスの社外取締役になり、2024年2月にはDAZNジャパンの社長に収まっている。
キャリアが途切れないのは、ジェットコースターのようなリクルート時代に、鍛えられ、打たれ強くなったからだろう。
笹本氏は1964年にタイのバンコクで生まれた。帰国子女の笹本氏はその英語力を生かし、大学時代の4年間はアメリカのテレビ局NBCのニュース部門で通訳のアルバイトに精を出していた。
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