「元リク」が日本サッカーを史上最強にした理由 人材輩出企業「リクルート」強さの秘密【前編】

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これはリクルートの江副浩正氏が創業期から実施していた制度だ。村井氏は言う。

「自分が思う自分の姿と他人が見る自分の姿は随分と違う。自分を正すには鏡を見なくちゃダメなんですね。Jリーグ全クラブの経営者からも毎年1回、無記名で評価をいただき、結果を公表していました」

良いことも悪いことも全部、外部の目にさらす。これを村井氏は「天日干し経営」と呼ぶ。オーナーでもない人間が10年、20年、30年と組織のトップに君臨し、会社の意思決定がその人物への忖度でねじ曲がる事例が頻発する今、村井氏はこう指摘する。

「魚と組織は天日にさらすと日持ちがよくなる、なんて周囲には説明しています。人の目にさらすというのはつらいけど、組織を健全に保つにはやっぱり必要なんです」

「わからないことがあったらお客さんに聞け!」

村井氏がリクルートで学んだもう一つの「大事なこと」は「顧客に学べ」である。

リクルート時代の人材サービスの顧客に「ツカサのウィークリーマンション」で知られるツカサグループ元社長の川又三智彦氏がいた。「ヨンヨン、マルマル、ワンワンワン。ツカサのウィークリーマンション」のテレビCMで一世を風靡した会社だ。

川又氏のネクタイピンには小型のマイクがついていて、何か思いつくとすぐ録音スイッチを押す。川又氏は「僕は頭が悪いから、こうしないとすぐ忘れちゃうんだ」と謙遜したが、「これのおかげで、読みたい本100冊、これまで見た映画。全部、言えるよ」とも言っていた。

「なるほど」と思った村井氏は川又氏のマネをし始めた。

新聞に登場する総理大臣や大企業の社長の記事を読み、彼らの発言について自分が思いついたことを、録音の代わりにハガキに書き留め始めたのだ。

「あなたはこう言っているが、自分はこう思う」

せっかく書いたので、総理や社長にそのハガキを出した。もちろん返事は来ない。本人の手に渡る前に事務局で捨てられているのは百も承知だ。

だが書いているうちに、自分とは縁のない別の世界の人だと思っていた相手の姿が、頭に浮かんでくる。きっと今頃はこんな風に思っているんだろうなと、総理大臣が友達に思えてくる。すると自分の世の中の見方が変わってくる。

このときについた「なんでも書き留める癖」が、川淵氏の講演のテープ起こしにもつながった。

「わからないことがあったらお客さんに聞け!」

江副氏が創業期から社内で言い続けていたことである。顧客から学び、自分もやってみる。川淵氏に渡した「写経」によって、村井氏はJリーグチェアマンへの道を切り拓いた。

大西 康之 ジャーナリスト

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おおにし やすゆき / Yasuyuki Onishi

1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)、『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男』などがある。

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