そもそもインフレが続いているため、予算総額が上振れするのは自然だ。また好調な一部産業と他産業との所得格差が広がり、堅調な経済環境の恩恵が広く行きわたっていない。そのため、所得再分配機能のある財政支出の項目を見直すことは検討に値するが、全体を削減しようという発想は適切といえないだろう。
チキンレースを始めている与野党
卓栄泰・行政院長(首相)は予算審議期間中に「国を麻痺させ、政府を壊し、中華民国(台湾)を滅ぼす第一歩ではないか」と批判していた。頼清徳総統も予算案通過後に「前例のない影響がある」とし、「到底受け入れられない」と野党に再考を求めた。与党側も野党への対峙姿勢を強めている。
与党内でいま囁かれているのは、選挙基盤の弱い国民党の立法委員へのリコールを、与党支持者を動員して仕掛けようというものだ。
リコールに成功し、その補欠選挙で6議席増やせれば議会で過半数を握れるからだ。野党が2024年末にリコール要件を厳格化しようとしたのは、与党のこうした動きを察知していたからでもある。
リコール要件を厳格化する法案には、与党やその支持者らが「民主主義が後退する」と批判した。ただ、リコール要件は、選挙で選ばれた立法委員や地方首長の身分をどこまで保証すれば選挙時の民意と現在の民意のバランスをとれるのかなど、いかに民主政治を運用するかという問題にすぎない。
むしろ、公職者が不適格であると判明して改善の手立てがないときの最終手段として用意されているリコール制度を、与党側が悪用しようとしているのではないかという批判は免れない。地盤が弱い立法委員が必ずしも公職者として不適格な人物と一致するわけではない。
与野党ともに支持者以外からみれば間違った無茶なやり方を互いに続けており、一歩間違えれば有権者にそっぽを向かれかねない。それでも強硬な姿勢を崩さずチキンレースに走るのは支持率が拮抗しているからだ。
台湾民意基金会が1月21日に発表した世論調査では、与党・民進党の支持率35.1%に対し、国民党が20.8%、民衆党が13.5%だ。政党別で民進党の相対的優勢は続いているが、野党2党を合わせた支持率は34.3%となる。
リコール要件の厳格化や地方への財源配分増加も、世論調査では賛成と反対が同程度。与野党ともに自分たちこそが民意を代表していると言い張り、それぞれの支持者も自分たちこそが正しいと信じて疑わない社会の分断が進んでいる。この状況で相手方に妥協することは、コアな支持者から「弱腰だ」として支持を失うリスクを背負う。
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