「脳死は否定するのに移植を望む」はおかしい? 医学的な事実を理解していれば無用な迷いは消える
手が動くのに死んでいるとはとうてい信じられないと思うかもしれないが、これは脊髄反射のなせる業で、脳幹が死んでいても脊髄が生きていると起こり得る。脳死の患者さんに全身麻酔をかけるのも、脊髄反射による体動や筋硬直を避けるためだ。
そのような説明を聞いても、ふだんから脳死のことなど考えたこともない人は、すぐには納得できないにちがいない。たった6時間空けて再検査しただけで脳死だなんて決めつけないで、もっと治療を続けてほしい、治療に最善を尽くしてほしいと思うのが人情だろう。
遅かれ早かれ、心臓が停止する
脳死状態の患者さんに、家族が治療の継続を望んだ場合、病院側は治療を続けてくれる。しかし、脳死の場合は遅かれ早かれ、心臓が停止する。そうなると心臓移植のための臓器提供はできなくなる。
たとえば、あなたの子どもか孫、あるいは配偶者が、交通事故に遭って頭部を激しく打ったり、川や海で溺れたりして、心肺停止の状態で病院に運ばれたとする。人工呼吸をしたら心臓が動きだしたけれど、6時間後の再検査で脳死と判定されたとき、臓器を提供してもらえないかと言われて、受け入れられるだろうか。
昨日まで、いや今朝まで元気でいたのに、まだ身体も温かいし、心臓も動いていて、脈も触れるし、血圧だって測れるのに、大切な身内をもう死んでいると思えるのか。脳死判定などどうでもいいから、できるかぎりの治療を施してくれと願うのではないか。当然、臓器提供などには応じられない。
その気持ちはわかるが、立場を変えて考えるとどうだろう。
あなた自身や大切な身内が、急にしんどさを訴えるようになって、病院で検査を受けると、「拡張型心筋症」と診断される。このままだと症状は悪化し、余命は半年前後と言われる。治療法は心臓移植のみ。心臓移植さえ受ければ、天寿をまっとうできる。
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