「脳死は否定するのに移植を望む」はおかしい? 医学的な事実を理解していれば無用な迷いは消える

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そう言われたとき、あなたは是が非でも自分や身内に心臓移植をしてほしいと思うだろう。

そのとき、どこかの病院で患者さんが脳死になって、たまたま心臓のサイズや血液型が適合したらどうか。患者さんの家族が治療の継続を望んでいたら、もう脳死で助からないのだから、申し訳ないけれどあきらめて、臓器の提供を承諾してほしいと願わないか。

脳死と移植のダブルスタンダード

これがダブルスタンダードだということは、説明するまでもないだろう。自分や自分の身内が脳死になったときには、心臓が止まるまで治療を続けてほしい、自分や自分の身内に心臓移植が必要になったときには、脳死の人から心臓を提供してほしいというのだから。

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これは子どもの発想である。成熟した大人なら次のどちらかを選ぶ。

A:脳死のときには心臓が止まるまで治療を求める代わりに、移植が必要になっても受けない。

B:移植が必要なときには受ける代わりに、脳死になったら臓器を提供する。

困難な選択と思う人も多いだろうが、実はさほどむずかしくはない。脳死、すなわち脳幹が死ねば、呼吸も心拍も維持できないので、人工呼吸器で呼吸を補っても心臓はいずれ止まる。その医学的な事実を理解していれば、選択肢はBしかあり得ないということになる。

正しい知識と理性で感情を抑えることが、無用な迷いや煩悶、悔いで己を苦しませることを免れさせてくれる。

久坂部 羊 作家

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くさかべ よう / You Kusakabe

1955(昭和30)年大阪府生まれ。大阪大学医学部卒。外科医、麻酔科医を経て、外務省に入省。在外公館にて医務官を務めた。2003(平成15)年、『廃用身』で作家デビュー。2014年、『悪医』で日本医療小説大賞を受賞。他に『破裂』『無痛』『神の手』『嗤う名医』『芥川症』『老父よ、帰れ』『オカシナ記念病院』『怖い患者』『生かさず、殺さず』などの著書がある。『ブラック・ジャックは遠かった』『カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座』などエッセイも手がけている。

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