「人間関係を過度に重視する情緒主義や、強烈な使命感を抱く個人の突出を許容するシステムの存在が、失敗の主要な要因として指摘される」――これは歴史学者の戸部良一らによる社会科学の手法を用いた旧日本軍の戦史研究の名著である『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社)における一節だ。
戸部らは、それを「日本的集団主義」と呼んだ。一般的に集団主義と聞くと、個人の存在を認めず、集団への奉仕と没入を最高の美徳とする価値基準を想起しがちだが、そうではないと否定する。
「個人と組織とを二者択一のものとして選ぶ視点ではなく、組織とメンバーとの共生を志向するために、人間と人間との関係(対人関係)それ自体が最も価値あるものとされる」考えであるとし、「そこで重視されるのは、組織目標と目標達成手段の合理的、体系的な形成・選択よりも、組織メンバー間の『間柄』に対する配慮」だという(同前)。
戦争中、数々の作戦で成果が思わしくなかったり、壊滅的な被害を招いたりしても、中止や方針転換などの意思決定に相当の時間を要した。その後の責任の所在もあいまいなままになる例も多かった。
そこには、現場がどれだけ悲惨なことになろうとも、最終的には個人間の付き合いや情緒といった非合理的な力学に左右されるという実態があったのである。
「間柄」を最優先してしまった
フジテレビの今回の騒動に置き換えると、中居氏と幹部の「間柄」、幹部と社長の「間柄」が特に重要視され、被害者とされる女性や、悪評にさらされる関係者たちは二の次にされた……と言ってしまうのは、真相が判明していない現時点では、推測が過ぎるのかもしれない。
ただ、フジテレビの公式ホームページに記者会見における発言と同じ文章が掲載されているが、「視聴者の皆様をはじめ、関係者の皆様に多大なご迷惑・ご心配をおかけしています」と、世間に対する謝罪の言葉は述べられているものの、被害女性に対する謝罪の言葉はない。
そうなると、自浄作用はなかなか望めないという見通しもおおよそ想像ができる。この局面においても「間柄」を最優先しているからだ。
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