脱炭素が空文化、エネルギー基本計画は課題山積 再エネ低迷、原発と火力の継続が最大の特徴
原子力発電については、大きな方針転換を図り、2011年の福島第一原発事故以来一貫して維持されてきた「依存度低減」の方針を撤回した。今後は、「特定電源や燃料源に過度に依存しないようバランス」を取り、「最大限活用」するとしている。
また、廃炉を決定した原発を有する事業者の原子力発電所のサイト内での次世代革新炉への建て替えが初めて明記された。 原発の利用のあり方は国民にとって重大なテーマであるが、今回の方針決定に際しては、審議会の外で幅広い議論やヒアリング等の機会は設けられなかった。
再エネについては2040年度に4〜5割とされ、2030年度目標の36~38% とほぼ同程度、もしくは微増にとどまる極めて低い数字に抑えられた。 内訳は、太陽光22〜29%、風力4〜8%、水力8〜10%、地熱1〜2%、バイオマス5〜6%とされ、設備導入量(ギガワット)は示されていない。
うち太陽光発電は増加が見込まれるものの、幅がある。高い水準の目標を基本とし、年間の導入ペースを現在の2〜3倍の10ギガワット以上に引き上げる導入加速策を図ることが重要である。新技術であるペロブスカイト太陽光発電について20ギガワットの導入目標も掲げられたが、量としては小さいため、住宅や施設の屋根への設置や農地へのソーラーシェアリングの拡大が今後の重点になる。
風力発電については4〜8%と特に低く抑えられ、2040年に30~45ギガワットの洋上風力の案件形成目標も前回のエネルギー基本計画から変更されなかった。
仮に4%にとどまれば、前回のエネルギー基本計画における2030年度目標と同水準の24ギガワット程度で頭打ちとなり、陸上風力や、これから拡大が期待される浮体式洋上風力の導入拡大へのインセンティブを欠くことになる。少なくとも、前出のローレンス・バークレー研究所が掲げた2035年の75ギガワット(陸上、洋上風力合計)水準へと引き上げることが、産業政策としても必要だろう。
対策や施策の検証と強化の議論の不在
今回のエネルギー基本計画のもう一つの特徴は、策定手法が将来からのバックキャスティングによるものであるとして数字の積み上げをしていない点にある。カーボンニュートラル達成に必要な経路を描くうえで、あるべき将来像を示し、それを達成するための道筋を描くバックキャスティングは重要だが、 それを理由に現行施策による温室効果ガス排出削減や電源構成の達成見通し、不足分を埋める施策の強化などの議論がすっぽりと抜け落ちた。
2030年度46〜50%の温室効果ガス排出削減目標の達成に届くのかも検証できていない。現実には、非効率の石炭火力の削減も進んでおらず、風力発電の導入も大きく遅れている。原子力の2割の実現可能性も検証されていない。
需要側でも産業部門の省エネの深掘りや、住宅・建築物の対策強化、運輸部門におけるEV(電気自動車)の導入加速などによるさらなる対策可能性や施策の強化の議論もほとんど行われなかった。足元の対策を進めるうえでは非常に心許ない。
地球温暖化対策計画案においては、2035年度60%削減、2040年度73%削減(2013年度比)の温室効果ガス排出削減目標案が示された。2035年度60%削減目標は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の世界全体の1.5度整合シナリオの中央値(66%)の緩い方の幅に沿わせた水準であり、1.5度に整合しておらず日本の目標として不十分という指摘も多くなされたが、そのまま案とされた。
先進国としての責任を果たすなら、少なくとも世界平均を下回らない66%削減以上、さらに75%削減に届く範囲で目標を設定する必要がある。また、2040年度を軸とするエネルギー基本計画案では、2035年度の温室効果ガス削減目標と関連する数値がまったく示されず、裏付ける根拠を欠いていることも問題である。