この年も前半をアルバイトに充てて、後半を予備校で過ごした青野さんは、試験当日に問題なく描ければ1次に合格するくらいの実力には持っていくことができました。ところが、またしても不運が襲います。3浪目の受験で課された静物デッサンが、この年思わぬ形で出題されたのです。
「『たくさんのモチーフがひな壇状に置かれ、その中心に鳥籠に入った鳩がいました。その鳩を鳥籠から出し、自由に配置して描きなさい』という試験内容でした。
『こんなの(過去に)出たことないぞ!』と困惑していたのですが、みんなが静かに描いていたので、そのうち鳩が丸まって寝はじめたんです。私のいる位置からは、くちばしのあるまんじゅうにしか見えなくて、うまく描けませんでした。結局この年もまったく手応えがないまま終わり、1次で落ちてしまいました」
まったく勉強をしなかった4浪目
4年連続、東京藝大の1次試験で落ちた青野さんは、ついに将来の就職を考えて、大塚テキスタイルデザイン専門学校に入学する決意をします。それでも、藝大受験への熱意自体はまだ衰えていませんでした。
「在籍しながら仮面浪人をしていました。受験を諦める気はまったくなくて、諦めなければ、いつかは受かるんじゃないかと思っていたんです。専門学校の絵の課題は藝大受験と関係がありませんでしたが、結果としてこの選択はよかったですね。
専門学校に入ったことで浪人という無職の状態ではなくなり、地に足がついて余裕が生まれたんです。それで描く絵が変わって、何もしていないのに3浪目よりうまくなっていきました」
ところが、母親が春に脳梗塞で入院し、昼には病院に行ってご飯を食べさせる生活を11月まで送ったあと、母親の退院と入れ違いになる形で父親がアキレス腱を切ってしまい入院をするという慌ただしい1年を過ごしていたため、この年は受験対策どころではなかったと語る青野さん。
それでも、専門学校の学生という身分を手に入れたことが、青野さん自身の能力を向上させていったようです。
この年は、「また試験で鳩のような問題が出たら描けない」と思ったため、青野さんはふたたび2浪まで受けていたデザイン科デザイン専攻に出願し直しました。
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