蛍の航跡 帚木蓬生著

蛍の航跡 帚木蓬生著

現役の医師による『蝿の帝国』と対をなす大作だ。陸海軍軍医15人の手記の形を取ったノンフィクション風小説だが、変化に富む短編集となっていて飽きさせない。医薬も食料もほとんどない中、軍医たちは戦傷者よりもむしろ飢餓や赤痢、マラリアへの対応に追われる。米軍に翻弄され武器もなくジャングルを「転進」する将兵、置き去りにされる末期の兵士たち。その描写はリアルの一語だ。日本兵の残虐行為、逆に豪軍捕虜となっての死の行進、シベリア抑留の苦難、これらもまた重くのしかかる。

惨禍の描写が圧倒的な力で迫る一方で、軍隊生活のエピソードや哀歓、現地の人々との心温まる交流など、救われる物語も少なくなく、構成もすばらしい。人と事態を客観視する冷静さが随所に表れるのは軍医ならでは。克明な描写とともに巧まざるユーモアが価値を高めている。医師たちは極限状況で何を考えたのか。読み継がれるべき戦争文学の傑作である。(純)

新潮社 2100円

  

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • コロナ後を生き抜く
  • 非学歴エリートの熱血キャリア相談
  • コロナショック、企業の針路
  • ボクらは「貧困強制社会」を生きている
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
スペシャルインタビュー<br>元ラグビー日本代表・畠山健介

今年から米メジャーリーグ・ラグビーのチームに所属、華やかな選手生活とは裏腹に幾多の葛藤を乗り越えてきた畠山選手。「ラグビーファンの拡大には、リーグのプロ化が不可欠だ」。新天地にいる今だから見えてきた日本ラグビー改革論を熱く語ります。