体を丸めた状態で、冷や汗を流して痛みをこらえているかおりさんの様子に気づいたその業者は、なんと乗っていた会社の車にかおりさんを乗せ、かかりつけの病院に連れて行ってくれたのだ。
かおりさんがそのときの様子を振り返る。
「業者の方は40~50代くらい。奥さまが私と同じ病気を経験されていたことから、ピンと来たそうです」
診断の結果、幸いにもチョコレート嚢胞はまだ破裂しておらず、卵巣捻転も認められなかった。このため、その日は痛み止めの点滴をして、症状が落ち着いたところで手術し、左側の卵巣を取り除いた。
術後は順調に回復し、入院3日間で退院となった。かおりさんが受けた腹腔鏡手術は、腹部に5~12ミリ程度の小さな穴を3~5カ所あけ、そこからカメラや手術器具を入れるという手術法だ。
大ごとにならなかった理由は?
手術を終えた今、かおりさんは自身の病気についてどのように考えているのだろうか。
「体にいつもと違う症状があったら、早めに医療機関に行くことを心がけていたので、そのおかげで何とかなっていたのかなって思いますね。今となっては、“チョコちゃん”は暴れたのではなく、痛みを発して『もう限界だよ』って警告してくれたのだと思います」
子宮内膜症も月経前症候群も、生理のあるうちは完治が難しく、症状が完全に落ち着くのは閉経を迎えてからになる。それまでまだしばらく、病気との付き合いは続くだろうが、かおりさんには不安はないという。
「病気もまた、自分の一部。これからも、困ったときは家族の協力も得ながら、うまく付き合っていきたいと思っています」
総合診療かかりつけ医で、きくち総合診療クリニック院長の菊池大和医師によれば、チョコレート嚢胞の患者が救急搬送されるケースは珍しくないという。
「腹痛の女性患者が来たら『妊娠、子宮外妊娠、チョコレート嚢胞、を疑え!』というのが、救急のイロハなのです」
チョコレート嚢胞の急患は、主に「卵巣捻転」によるものだ。卵巣捻転は大きさに比例して起こりやすく、4~5センチを超えるとリスクがより高くなるという。ねじれた部分の血流が悪化し、その先にある卵巣に血が行かなくなると壊死(えし)を起こすため、緊急手術が必要だ。