「若返った日本人」雇用の質という経済界の課題 高齢社会対策大綱が示した新高齢期像と論点

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日本老年学会・日本老年医学会は、2013 年から高齢者の定義を再検討する合同WG を立ち上げて、分析を行ってきた。そして2017年WG報告書では、高齢者75歳定義を提言している。

提言:高齢者の新たな定義
65〜74歳 准高齢者・准高齢期(pre-old)
75歳〜   高齢者・高齢期(old)
なお、高齢者のなかで、超高齢者の分類を設ける場合には、90歳以上とし、超高齢者・超高齢期(oldest-oldないしsuper-old)と呼称するものとする
出所:「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」(2017年)8ページ

こうした一連の活動を行ったWG の座長、大内尉義東大医学部名誉教授は、2017年に次の文章を書かれていた。

実は、提言を出してから70 歳が落としどころとして適切なのでは」と言われたことがあります。「落としどころ」という言葉に驚きました。我々は科学者として、数々のデータが、いまの高齢者は以前より十歳ほど若返っていると示しているから、高齢者の定義を75 歳以上にすることを提案したわけです。これは科学から導かれた提言であって、スローガンではありません(『中央公論』2017 年6 月号)

日本人はすでに、75歳からを高齢者と呼ぶべきところまで、若返ったのである。そうした若返った日本人が排除されない社会の構築を、社会経済制度の設計者側にいる者たちは考えていく。

決して、社会保障や財政、労働政策などの制度の設計者側からは、若返りや、健康寿命の延伸の必要性などは口にしない。そうしたメッセージを持っているのが、今回の第5次高齢社会対策大綱である。

「健康寿命」という言葉の扱いに注意しよう

健康寿命という言葉がある。第4次高齢社会対策大綱では、「健康寿命の延伸」という言葉が何度か使われ、数値目標も「2歳以上延伸(2025 年)」などと掲げられていた。しかし第5次大綱では、参照指標には入っているが、本論には健康寿命という言葉そのものがない。なぜか。

先に述べたように、高齢社会対策大綱は、その前に開かれる検討会で案が作られる。そしてその後、各府省をはじめ、関係者との折衝の中で文言の筆削補訂が進められて、閣議決定に至ることになる。検討会の案には健康寿命について次があった。

健康寿命は、必ずしも指標と施策との因果関係が明確ではないことや、またその言葉のイメージが、その時々の状況に応じた健康・活躍の姿がある中で、加齢に伴う心身の変化を経験する人の生きづらさを助長するとの指摘もあることから、KPIとして活用することについては慎重に考えるべきである。

私が欠席をしていた第1回の会議では、次のような発言がなされていた。

これも気になっているところで、健康寿命を延ばそうということです。・・・実はこれも生きづらさを助長しているようなイメージを受けています。人は年を重ねれば病気にもなります。治らない病を抱えて日々生きる人々、それが多分、高齢、年を重ねることだと思います。その中で、そうなってしまった自分はもう健康ではないのか、もう価値がないのかというところで、我々が健康寿命という言葉を遣うときは、もう少し気をつけてこの言葉を遣っていかなければいけないと感じております。

どういうことだろうか。

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