いつものように世間話をお互いに話すついでに、中将は宇治の八の宮のことを話しはじめ、このあいだの夜明けの有様などをくわしく言っていると、宮は切に興味を持ったようである。その様子を見て、思った通りだ、とますます気持ちが傾くように中将は話し続ける。
「それで、そのお返事などはどうして見せてくれないんだい。私だったら見せるのに」と宮は文句を言う。
「そうですね。あなたはずいぶんたくさんのお手紙を見ているでしょうに、片端でも見せてくれないではないですか。この方々は、私のような冴えない男がひとり占めしていいような方々でもないから、ぜひ見てほしいと思うけれど、いったいどうしてあなたが宇治まで尋ねていけましょう。気軽な身分の者こそ、恋をしたければいくらでもできる世の中です。人目につかないところでいろいろやっているのでしょう。それ相応に魅力のありそうな女で、もの思わしげな人が世を忍んでいる住まいなども、山里あたりの目立たないところにはよくあるそうですよ。今話している方々は、まったく世間離れした聖(ひじり)みたいで、洗練されたところのない人たちなのだろうと今までずっと馬鹿にしていて、噂も耳にも留めていなかったのです。けれどほのかな月明かりで見た、その通りの器量だとしたら、非の打ちどころもないと言えます。その物腰も容姿も、あのような方々のことを理想的だと言うのだと思います」などと話す。
高貴な身分であることが厭わしいほど焦れったく
しまいには、宮も心底妬ましくなって、並大抵の女には心を動かしそうもないこの中将が、こうまで深く心惹かれているとは、ちょっとやそっとの方々ではないのだろうと、とてつもなく姫君たちに会ってみたくなる。
「ではこれからもよくよく様子をさぐってくれないか」と激励する。制約のある高貴な身分であることが厭わしいほど焦れったく思っているらしい宮の様子がおもしろくなって、
「いやいや、そうもいきません。私はしばらくでも俗世間のことに執着すまいと思うわけのある身なのだから、ちょっとした遊びの色恋も遠慮したいのです。自分の心ながら抑えかねる思いにとらわれてしまったら、まったく不本意なことになってしまう」と言うと、
「なんと大げさな。例によってものものしい聖めいた口ぶり、果たしてどうなるのやら見届けたいね」と宮は笑う。
中将は心の内では、あの老女房の弁がほのめかしたことなどが、じわじわと胸に広がり、なんとなく悲しく思えて、うつくしいとか好ましいとか見聞きする姫君たちについて、それほど気になっているわけではないのだった。
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