大切な人の喪失「悲しみと後悔」にどう向き合うか 悲しみとうまく「距離をとる」方法は人それぞれ
「考えることに疲れてしまって……。パソコンのように強制終了するボタンが私にあったらいいのに……」
このように話してくれたのは、在宅での介護を長く続けた末に、母親を看取った60代の女性です。
「家のどこにいても、母との思い出にあふれていて、頭の中はいつも母のことでいっぱいなんです。母は在宅介護で幸せだったのか、私は十分な介護ができたのか……。
もっとこうしておけばよかった、あれも食べさせてあげたかったと、同じことをぐるぐると考えてしまう。もう疲れてしまって……。
何も考えたくないし、母がいたことも忘れたいと思うことさえあるんです。薄情な娘ですよね……」
あれこれ考えすぎてしまってどうしようもないときは、「考えない」ことも、一つの知恵ではないでしょうか。今のつらい時間をやりすごすのです。
いろいろなことを考えずに、目の前のことだけに集中してみるといいかもしれません。仕事や家事、趣味など、時間に追われながら、一日を淡々と過ごすのもいいと思います。
亡き人のことを忘れようとするのではありません。
その必要はないですし、そもそも忘れようと思っても、忘れられるものではないでしょう。
日常の生活に没頭して、亡き人のことを考えずに、悲しみから距離を置くといえばいいかもしれません。
何も考えたくない日は水回りの掃除
乳がんで母親を亡くした60代の女性は、次のような話をしてくれました。
「何も考えたくない日は、家の水回りの掃除をすることに決めています。トイレやお風呂や台所を、一心に磨くんです。少しの間だけど、何もかも忘れることができて、時間が過ぎていることがあります」
また、「妻は旅行に行っていると思って毎日を過ごしている」と話す70代の男性もいました。
「妻が亡くなったことを忘れたいんです。今もどこかで生きているって、そう思いたい。だから僕は妻がいつ旅行から帰ってきてもいいように、家を掃除して、食事を作って、淡々と生活しています」
わずかな時間だけでも何かに没頭する時間をもつなど、亡き人のことを意識して「考えない」時間を作るのです。