松下幸之助の成功の根源にあった独自の死生観 「命をかける」の「命」に対する見方が一般とは異なる

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これは、いいかえると人間として生きる以上、やはり何か1つくらいは、命をかけるほどの真剣さで打ち込むものがなければ、ある意味では、その人の人生は非常に淋しいものであるといえるのではなかろうか。

従って、たとえばサラリーマンとして会社に勤務する以上は、やはりみずからに与えられた仕事の意義をわきまえ、そこにたゆみなき責任感を抱いて、打ち込むことが望ましいと思うのである。

このような態度から、私はおのずとその人の道がひらけてこようかと思う。これは結局は仕事の成果となってあらわれ、会社の発展となり、ひいてはわが国の繁栄へと連なってゆくと思うのである」

以上の2つの引用文について、昭和の古い価値観を述べているに過ぎないと、批判的にとらえる向きもあるだろう。かつての「モーレツ社員」や「企業戦士」の姿が思い浮かばれる。

現代で会社の上司が部下に向かって幸之助と同様の発言をしたら、パワハラであると指摘される可能性もある。幸之助は明治生まれの人間で、戦争の時代を生き抜き、戦後も大きな困難を経験したことから、厳しさが人を育てるという意識が多分に強いことは否定できない。

「命」とは「生命力」

ただ、幸之助の世界観の次元に降り立って考えれば、「命をかける」の「命」に対する見方が一般とは異なることに注意されたい。

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幸之助にとっての「命」とは「生命力」のことである。幸之助によれば、人間にはそれぞれ、「宇宙根源の力」によって個別に与えられた生命力を生かしていく、すなわち天分や天命に生きることが求められている。

そして、「お互い人間というものは、自分の天分、持ち味を生かし切るとき、初めてほんとうの生きがいや幸せというものが味わえる」と述べているように、天分を「生かし切る」までに生かすことで初めて生きがいが生まれてくるというのだ。

「生かし切る」とは、「命をかける」、あるいは幸之助の別の表現を用いれば「使命に殉ずる」ことである。幸之助からみれば、事業部長の2人は、天分をまだ生かし切っていなかったのだ。

川上 恒雄 PHP理念経営研究センター 首席研究員

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かわかみ・つねお / Tsuneo Kawakami

1991年、一橋大学経済学部卒業後、日本経済新聞社勤務。英ランカスター大博士(宗教学)。南山大学南山宗教文化研究所研究員などを経て現職。

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