松下幸之助の成功の根源にあった独自の死生観 「命をかける」の「命」に対する見方が一般とは異なる

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いくら再建計画を立て直しても黒字化する見込みがない。ならば理屈抜きで改革を断行するしかない――。谷井氏は販売から、製品開発、人事まですべてにわたって必死の改善に取り組んでいるうち、事業部は10カ月後に黒字化した。

幸之助から「きみ、ご苦労やな。しばらく面倒見たるからがんばれよ」などと励まされていたら、ずっと黒字化は実現しなかったという。「投資的事業だから赤字はやむをえない」という生半可な気持ちで経営をしていたら、血を流し続ける人間のように、事業部はやがて滅びてしまうし、ひいては会社全体に大きなダメージを与えるのだ。

「命をかける」ほどの真剣さで「天分を生かし切る」

以上は事業部長のケースだが、幸之助は、従業員であっても、ときに命をかけるほどの厳しさが求められるという。しかし、そのような厳しさは、世の中のために意義あることを実践することに伴う苦しさや辛さであって、そこを超えたところに真の生きがいが見いだされるとする。この点がよくわかる文例を、少し長いが、2つほど紹介しよう。

「きびしさの中に人間の本当の生き方があるのではないかとも思うのです。お互いが、自分の仕事に命をかける、命をかけて仕事をする、そういう心境を味わっていくところに、自分の使命、生きがいというものを感じるのではないかと思うのです。

みなさんが今、産業人の1人として立っておられるとするなら、みなさんはその産業人の1人として命をかけた仕事をしておられるでしょうか。ただその日その日を無為にすごしている、単なる労働をしているというのではなく、自分の仕事に産業人として命をかけるのだという考えをもっているかどうか、ということです。私はみなさんはおもちになっていると思います。が、それをさらに徹底してもち、そこに生きがいを感じることが大切だと思うのです」

「われわれは日常、何気なく“命がけ”という言葉を口にするようであるが、とにかく何か事をなすに際しては、いわゆる命をかけるような真剣さというか、精魂こめた態度こそ必要なのではなかろうか。

しかし、これほど言うは易くして行うに難いことはないかも知れない。けれども、それがいかにささいな事であるにしろ、このような態度をもってのぞむということは、必要であると思う。このような心構えで事にのぞむという考え方が必要だと思うのである。

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