日本の大学はグローバル競争で生き残れるか 世界大学ランキング評価担当者に聞く

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 ――論文に引用された数が多いほど、質の高い研究と言えるのでしょうか。

分野によっては議論の余地があるということは十分に理解している。が、基本原則はそうだ。ある1つの研究論文が、ほかの論文に引用された数が多いほど、それだけ影響力がある。つまり、ほかの研究者が参考にしたり、そこから何か新しい研究を行ったりしているということが言える。

必ずしも単純な引用が高い品質につながるものではないということも承知している。とはいえ、5年間における600万本の論文の中から、5000万もの引用を見ているという点で数的な裏付けはある。

大きな影響力を持っていたり、何か革新的な要素があるからこそ引用されているという前提に基づいている。

――この論文引用数の項目については、東京大学、京都大学、慶応義塾大学など、日本の11大学による「学術研究懇談会」から、評価方法の改訂を求めるよう声明(→原文はこちらが出ています。

私たちは、1論文当たりの引用数という新しい指標によって、より妥当に研究内容の品質を分析できるという結論に達した。以前使っていたルールでは、大学で発表された論文数を教職員数で単純に割って指標としていたが、これでは研究の質というところまで正確に測ることができなかった。

たとえば、理工学系と人文系では発表数自体が異なるし、それをグローバルに平均化するのも難しい。医学部があるだけで発表論文数が増え、有利に働いていた面もある。旧ルールよりフェアな手法で、正確な評価ができているはずだ。

私が懸念しているのは、こうした方法論で議論を展開されてしまうと、問題の本質を見過ごしてしまうのではないかということだ。日本は新ルールを取り入れたことによって、確かに論文引用数のスコアが低下してしまった。

しかし、これは単なる結果であって、それよりも、日本の大学がどういう問題を抱えているかという点をよく見てほしい。日本が特にほかの国から後れをとっているのは、大学としての収入やグローバルな展望という点。

確かに論文引用数も問題かもしれない。でも、それよりも改善に着手すべき点がある。

――日本の大学に欠けているのはどのような点なのでしょうか。

欠点の前にポジティブな話をすると、日本の優れた点は大学の評判だ。1万5700人のピア(同じ学会、学部の研究者・教員)が、日本の大学の研究や学習環境について高い評価を与えている。この項目だけで見れば、東大はトップ10に入っている。それが世界における日本の大学の強みといえると思う。学生と教職員の比率、学生と博士号の比率といった項目でもスコアが高い。

ネガティブな点は、グローバルな視野に立った活動だと思うが、これは現在各大学で進めている施策に引き続き取り組めばクリアできる。だが、より根本的な問題として、資金面での弱さがある。

教育環境を整える、優秀な教職員に相応の報酬を支払う、優れた研究結果に対して投資をする、ということが、学生のよい学習体験や、優秀な学生の獲得につながる。日本政府もこうしたことをきちんと認識しなければ、世界に後れをとってしまう。優秀な大学は、その国の経済の牽引役として将来の成功のカギを握る。 

――資金面を強化するにはどのような手だてが必要ですか。

世界の名だたる大学は、潤沢な資金源を持っている。政府を頼るばかりでなく、大学自身が企業家精神を持って、新しい収入源の確保に努めているのだ。米国の私立大学がそのいい例で、相当な資金力がある。

日本の大学も、もともと産業界との連携に高い評価を得ているのだから、今後はより密接な産学連携関係を築いていく必要があるだろう。そのためにも、どうブランドを構築し、国際的な市場にどう展開するかは重要だと考えている。

CalTech Photo:Kevin Stanchfield CC BY-SA
堀越 千代 東洋経済 記者

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ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

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