アラブ革命はなぜ起きたか エマニュエル・トッド著/石崎晴己訳
人類学と人口統計学を駆使する立場からは、アラブの春は予見されていた。本書は世界の家族システムを類型化し、識字率の上昇と合計特殊出生率の低下によって社会が民主化へと急速に動きだすことで旧体制が崩壊すると立論している。チュニジアは内婚率が低下し、識字化は男女とも中東で最も早く、出生率の低下ではイランやイラクに20年も先行していた。であれば民主化運動が起こるのは時間の問題だったし、エジプトは女性の識字率以外はチュニジアと同列であるから民主化が飛び火するのは十分予想されたという。
イスラーム社会は民主化から最も遠いと決め付けてきた欧米の文化人やメディアが事態の本質をつかめず右往左往するのを軽妙にやり玉に挙げるなど、軽口や脱線を交えた問答形式で、著者の思考プロセスが明快に理解でき、抜群に面白い。ドイツ人への辛口論評や中ロへの言及も興味深く、老化する西欧への警告は日本にも当然当てはまる。(純)
藤原書店 2100円
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