このプロジェクトで興味深いのは、「人工衛星を水平分業で製作する」という発想が基礎になっていることだ。従来の人工衛星は完全なオーダーメイドで製作されているため、極めて高価な製品になっている。他方で、PCを始めとするIT機器は、モジュール化によって水平分業で製作されている。人工衛星も、通信機器や電源機器などをモジュール化し、それらをプラグイン式に組み合わせる方式を取れば、低価格・納期短縮、高信頼性を実現することができる。
打ち上げ成功日のSOHLAのホームページには、「当初、人工衛星の打ち上げ成功時には日本から『不況』という言葉が消えている事を願ってスタートしました。意に反して『未曾有の不況』の言葉が飛び交う中での打ち上げとなってしまいましたが、この打ち上げを起爆剤として『不況』という言葉が消える事を願っています」と書かれている。
この成功を基として、「LLP(有限責任事業組合)航空宇宙開発まいど」は、商業用人工衛星の継続的な受注によって、宇宙産業を地場産業とすることを目指している。
『下町ロケット』(池井戸潤著、直木賞受賞作品)に描かれたような高い技術を持つ企業は、いくつもある。実例が、中小企業庁「元気なモノ作り中小企業300社」や、東京都産業労働局「輝く技術 光る企業」に紹介されている。
例えば、北嶋絞製作所は、資本金1600万円、従業員20名という小さな企業で、金属板を「へら」と呼ばれる専用工具を用いて手作業で加工する金属加工の会社である。ミサイルの先端を保護するノーズコーン、直径3・3メートルの大型パラボラアンテナ、そして鍋や鈴、さらには数ミリメートルの小さな製品までが加工されている。「へら」にかける体重を微妙に調整して精密加工するというのだが、同社のホームページにある大型製品製作中の写真は、実に興味深い。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年12月10日号)
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