台湾で「独立」「統一」以外で躍進した新政党の失速 再び2大政党制に戻り、民進党の有利が続く

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こうした「台湾アイデンティティ」の定着と深化は、中華民国体制が表面上は維持される台湾政治が「台湾(本土)化」した結果である。蔡英文政権の中華民国と台湾を一体として扱う「中華民国台湾」路線の定着を示している。この「中華民国台湾」路線が台湾社会に広く受容されたことこそ、逆説的に民衆党の支持拡大の背景となったと筆者は考えている。

これまで国民党の選挙運動の現場では「中華民国」国旗(青天白日旗)に染まる。それに対して中華民国を台湾にとって外来的なものとみなす民進党のキャンペーンの現場では緑の党旗が翻るという対照的な光景が一般的だった。

中華民国と台湾を自然と結びつける世代

しかし、2024年総統選挙では民衆党支持の若者が柯文哲候補や民衆党の旗とともに中華民国旗を振る姿が印象的だった。中華民国旗を振りながら自由や民主主義を語り、社会変革を訴える民衆党を支持した若者世代こそ「台湾アイデンティティ」の定着と、蔡英文政権の提唱した「中華民国台湾」路線の浸透をもっとも体現した世代である。

これは、国民党の独裁政権や民主化運動を直接経験してきた上の世代が持つような「中華民国」体制の存続と台湾社会の主体性の追求の間にあった矛盾や居心地の悪さが、若い世代では相当程度薄まっていることを示している。

現実として台湾における「中華民国」は、かつての権威主義体制期には民主化運動と緊張関係にあったが、民主化後の歴代政権は「中華民国」と台湾を重ね合わせるナラティブを模索してきた。初代民選総統だった李登輝政権は「中華民国在台湾(台湾に在る中華民国)」、初の政権交代を成し遂げた陳水扁政権は「中華民国是台湾(中華民国とは台湾である)」という表現を使用していたが、蔡英文政権では2018年から蔡前総統が「中華民国台湾」を公言し始め、頼清徳総統も2024年の就任演説でこの路線の継承を明言している。

頼総統は就任演説の冒頭でまず「中華民国憲政体制」を基盤とすることを宣言するとともに、台湾中心の歴史観で「中華民国」の歩みを述べている。つまり、中華民国政府が台湾で戒厳令を施行して移転してきた1949年を起点とし、1996年の直接選挙導入を経て民主化し、「中華民国台湾」は「主権在民」の原則を確立した主権独立国家であることを国際社会に示したという経緯を強調するのである。

そのうえで、蔡英文政権の「4つの堅持」(①自由で民主的な憲政体制、②中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しないこと、③主権の侵犯や併呑を認めないこと、④中華民国台湾の前途は必ず台湾人民全体の意志に従うこと)を継承している。中国に「中華民国」の存在を認知して武力による威嚇の停止を求め、民主的に選ばれた台湾政府との対話を呼びかけるという立場で、現状維持を基本方針としつつ平和的共存を模索する姿勢を示していた。

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