大企業からイノベーションが生まれない理由 一度始めた事業に固執して撤退ができない
伊佐山:しかし、もし事業がうまく行けばソニーが買い戻すオプションもあります。大企業からすると初めて「この人たち、すごく都合がいい提案とプロデュースをしてくれるな」ということだと思います。自分たちが優先的にできないものをとりあえずやらせておいて、ある程度うまくいったら買い戻せる、って大きいでしょう? だってもしダメだったときには「あいつらセンスないなあ」と僕らのせいにできる。
WiLとのコラボレーションプロジェクトの失敗は、WiLの失敗であって、大企業側で責任をとらなければいけない人はいない。大企業と何かに取り組む際には、ここが実は結構大事だと思うんですよ。
山田:大企業に勤務している人の心理・心情も理解してビジネスモデルを作っている、と。
伊佐山:そうです。もちろん、僕らにも大きなメリットがある。大企業と多くのプロジェクトをやらせてもらうことに価値があるんです。ひとつのことに全力を懸けてそれが失敗したらおしまい、とはならないよう、回数を増やせるのが僕らの最大のメリットです。これは単独ではできません。多くの大企業と連携することで、提案の数も品質も上がると考えています。
多くのプロジェクトをやることに価値がある
山田:そもそも大企業では、なかなか回数を打つことはできませんね。
伊佐山:ひとつのプロジェクトについて、それを絶対に成功させるために議論をやたらすることになります。そして出すころにはtoo late(トゥー・レイト)になってしまう。みなさんこれが問題であることはわかっている。でも、大企業のメソッドを否定するのは、自己否定になっちゃうので、実はできないのです。だから、僕らみたいに完全な他人でもなく、身内でもない人に都合よくプロジェクトを任せてしまうことのメリットは、みなさんよくわかっているはずです。
山田:同じことをたとえば、外資系の企業再生ファンドなどが行うことはできますか。
伊佐山:これは外資系にはできないと思います。外資系の場合は何かを切り出して手にしたら、その価値をいかに高めて売るかということに全力を注ぐことになる。取り組んでいる本人が「そうじゃない」と言っても、外資系ファンドの資金の出し手は基本的には純金融投資目的の金融機関が出資しているので、いかにおカネを増やすかということに全力を傾けなきゃいけないわけです。それが宿命です。
その点、WiLは純粋な金融ファンドではない。もちろん儲けないとWiL自体は続けられないですけど、ある程度儲かっていればいい。われわれがバリューを得られるかどうかは、大企業の非効率性をどうやって改善するかにかかっている。R&D的な予算の一部を、単なるコストではなく収益に結びつけることができるか。
われわれにある程度の収益が確保され、おカネを預けた大企業に預けた以上のものが返せれば、プロジェクトとしては成功。大企業からすればWiLをうまく利用しない手はないわけです。そういう点でこれは日本型なのです。完全な強欲資本主義でもないし、社会主義でもない。そのいいとこ取りをしようとしています。
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