半導体依存を強める台湾は「オランダ病」なのか 激しい人材獲得競争、産業の多様化も必要だ

✎ 1〜 ✎ 42 ✎ 43 ✎ 44 ✎ 45
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

加えて、TSMCに代表される台湾の半導体産業の優位性は中期的にみて大きく揺らぎそうにない。半導体も天然資源のように価格は大きく変動するが、AI需要の高まりは先端半導体で強みを持つ台湾に有利に働くことが予想される。

頼政権は産業の多様化にも配慮

しかし、特定産業への特化にはマイナスの側面もある。長期的な経済発展のためには、産業構造が多様性を保つことが望ましい。そのほうが知の新たな組み合わせによる経済的価値の創出、すなわちイノベーションに有利だからである。

また、中台間の対立が増し、経済安全保障体制の整備の必要性が台湾でも強く意識されるようになっている。サプライチェーンの強靭性という観点からすれば、台湾に多くの競争力を持つ産業があるほうが有利になる面はある。

台湾行政院は8月15日、2025~2028年の「国家発展計画」を閣議決定し、その骨子を発表した。詳細は今後の発表を待つ必要があるが、頼清徳政権はすでに強い競争力を持っているファウンドリー、ICパッケージング、サーバー、電子部品、ICデザイン、高級自転車産業の競争力をさらに強化し、6つの台湾を守る山脈(「護国群山」)を形成するだけでなく、AIの活用を通じた全産業の底上げに力を入れる構えも見せている。

また、経済安全保障の観点からも、民生品やデュアルユース製品など、多様な産業の発展を支えていく方針を掲げている。さらには、人的資源への投資も拡大し、半導体関連人材はもとより、AI関連人材、STEM(科学・技術・工学・数学)人材の供給も増やしていくことを明らかにしている。

ただし、台湾では少子高齢化が進んでいる。すでに生産年齢人口(15~64歳)は2015年をピークに減少に転じている。台湾の中だけでは人材供給に限りがある。そのため、頼政権は蔡英文政権同様、海外人材の活用に一段と力を入れていく姿勢をみせている。例えば、就労ビザ発給条件の緩和を通じた高級人材の招致強化、東南アジアやインドなど海外の優秀な学生の誘致強化などである。

また、台湾企業の海外進出支援も続ける方針だ。海外市場の開拓のみならず、海外の優秀で多様な人材、土地、電力などの活用も狙った措置である。TSMCの熊本進出もこうした文脈でとらえることが可能だ。

台湾半導体産業の対日投資は、日本経済を活性化させるとともに、人材獲得競争を引き起こしてもいる。最近熊本では卒業後すぐに台湾有名大学への入学を目指す高校生も出始めたと耳にした。

このように台湾での人材獲得競争は日本にチャンス、リスク双方をもたらしている。チャンスを最大化し、リスクを最小化するため、日本の産官学は人的資本への投資を加速させ、激しさを増す国際的な人材獲得競争への対応を急ぐ必要がある。

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD