半導体依存を強める台湾は「オランダ病」なのか 激しい人材獲得競争、産業の多様化も必要だ

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このように「支出効果」による他の製造業の低迷は今のところ確認できない。台湾が「オランダ病」に陥っているというのは早計だろう。

人材獲得競争は確かに激化

それでも「オランダ病」懸念がくすぶっているのは、半導体産業と他の製造業との間で人材獲得競争が激しさを増しているためだろう。台湾の労働市場は逼迫気味になっている。失業率は2021年6月の4.8%をピークに低下基調に入り、足元は3.3~3.4%にまで低下している。

製造業で雇用・賃金の伸びを牽引しているのが半導体産業である。半導体産業を中心とする電子部品製造業が製造業雇用者総数に占めるシェアは2019年の21.5%から2024年上半期には22.0%に拡大している。

電子部品製造業の1人当たり賃金の伸びも高い。電子部品製造業の賃金は2019年時点でも製造業平均の1.39倍と高かったが、2023年には1.52倍にまで上がっている。それでも電子部品製造業の欠員率は2024年2月末で2.7%と高めである。半導体輸出の伸びが鈍化したことで2022年2月末の3.9%よりは下がったが、それでも2019年2月末の2.4%と比べれば高い。

電子部品よりも欠員率が高いのは、自動車・同部品、電力設備、コンピュータ・電子製品・光学製品、機械設備などである。これらの業界の平均賃金は電子部品よりも低く、人材獲得競争に競り負けているとみられる(表2)。

台湾の業種別平均賃金と欠員率

中でも不足感が強まっているのが、専門性を備えたハイレベル人材であり、欠員全体の23.7%を占めている(2024年2月末)。有名大学の理系人材は渉猟しつくされているため、有名大学の文系人材を一から教育し、エンジニアにしようとしている企業もあると聞く。機械設備のオペレーターも欠員が多い。人材だけでなく、土地や電力、水をめぐっても不足懸念がくすぶっている。

生産性が高く、給与水準の高い業種に労働力や資本など生産要素が集中していくことは、経済成長にとって望ましいことではある。台湾のように開放的で内需がそれほど大きくない経済では、特にこうした業種への特化が進みやすい。

実際、半導体産業は台湾経済の成長に大きく貢献している。台湾のGDPに占める電子部品製造業のシェアは2019年の11.8%から2022年には17.1%に拡大している。

また、半導体産業の発展は台湾の戦略的位置づけを高めた。当否はさておき「『シリコンの盾』が中国から台湾を守る」といった見解が出ているのがその証左だ。

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