なぜ若者はキャリアに不安を持っているのか 「成果主義」ではなく「貢献主義」で捉え直す社会

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舟津:こういうのって、仕事をやっていたらめっちゃわかることじゃないですか。たとえば、誰かが「じゃあ、やります」と手を挙げなければ、たたき台を出してくれなければ、すべてが止まってしまうことがある。そういう状況で積極的に動けること、それこそが貢献であり、ときに能力や成果以上に大切なものなんですよ。

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勅使川原:アカデミアでいうと、ピアレビューでの質問がそうですね。質問ないことが一番の不義理というか、愛のなさというか。企業でも、質問をしたり、意見を出したりするだけでも貢献なのに、スムーズに進行することばかりが評価されがちですよね。

舟津:「成果主義」や「能力主義」はとても妥当な制度にみえて、意外と作用しづらいし、何より根付かない。むしろ貢献主義という考え方のほうが現実に即しているし、多くの人がピンと来るのではないでしょうか。

貢献主義は会社のために理にかなっているし、社員にとっても見返りがある限り、よくできたシステムです。フリーライドを防げるし、ほどよく全体主義をとれる。

教育や学校運営も「貢献主義」で捉え直す

勅使川原:本当にそうですね。教育や学校運営でも同じように説明できるかもしれません。手を挙げて発表してくれたとしたら、たとえ間違ったとしても、それは貢献にほかならない。

舟津:たとえば、「この90分の授業の目的はみんなが楽しく学べること。そのときに、それぞれができる貢献って何だと思う?」と聞いてみる。こういうのって、すごく集団性が育ちやすい気がしますね。

勅使川原:それ、すごくいいですね。成果主義の世界だとリーダー役の人ばかりが評価されてしまうけど、貢献主義であれば、おとなしいけどきちんと話を聞いてくれる人も大切な存在になってくる。

舟津:全員がリーダーだったら回るわけがないんで。

勅使川原:ほんとに。1つの車にハンドルが3つも4つもあったら困ります。だけど、就活ではみんなリーダーですもんね。

舟津:たしかに。やっぱり、「特別に利益をもたらす人間」を演じないといけない、という怖さを感じているからだと思います。リーダーとか、自立性とか。それはいまの就活システムの問題だとして、貢献主義という視点から捉え直せば、必ずしもリーダーというわかりやすい立場だけが価値のあるものではない、と理解できるとは思いますし、個々の努力を引き出しやすい気はします。

勅使川原 真衣 組織開発コンサルタント

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てしがわらまい / Mai Teshigawara

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。ボストンコンサルティンググループやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は2023年紀伊國屋じんぶん大賞第8位に。既著に『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)、最新刊は『職場で傷つく』(大和書房)。だいわlog.「組織のほぐし屋」、朝日新聞デジタルRe:Ron「よりよい社会と言うならば」、論壇誌「Voice」(PHP)などで連載中。

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舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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