なぜ若者はキャリアに不安を持っているのか 「成果主義」ではなく「貢献主義」で捉え直す社会

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舟津:そうですね。無償の愛はほとんど存在せず、つねに条件付きの関係が基本になっています。ただ、深刻なのは、それがビジネスだけにとどまらず、個人の関係にも広がっているところです。学生でたとえたら「自分のことを怒らないなら慕ってあげる」みたいな。そんな愛なんかいらんわと思うんですけど。

勅使川原 真衣(てしがわら まい)
勅使川原 真衣(てしがわら まい)/組織開発コンサルタント 1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。ボストンコンサルティンググループやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は2023年紀伊國屋じんぶん大賞第8位に。既著に『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)、最新刊は『職場で傷つく』(大和書房)。

勅使川原:なるほどな。単純に博愛が疲れるという話でもなさそうですね。どうして他人を受け入れることが、コスト高に感じてしまう風潮が広がっているんだろうか。

舟津:いまパッと思ったのは、「そういう損なことをするやつはアホだ」みたいな言説が強まってきているのが影響しているのかなと。

勅使川原:損得を計算できないやつみたいな。

舟津:そうです、まさに。博愛は愚かだと。見返りのない愛を与えるなんて、リターンがない、無駄じゃないかということなんですよね。でも、博愛って基本的には理念であり価値観じゃないですか。そうしたいと思うからそうしている。

勅使川原:博愛自体に目的はないから、無駄だと考えるのは結果しか見えていないということ。

舟津:でも、そうした損得勘定に若者や学生は敏感になってきているとは思いますね。自分が損するのは嫌だから、もっと損得に気をつけないといけないみたいな。で、拙著でも述べたように、若者がそうなら、老若男女みんなそうなんです。

勅使川原:ふーん。それだと、すごい近視眼ですけどね。

舟津:間違いないですね。ものすごい近視眼。

勅使川原:でもこれって、経営学の枠組みというか、ゲーム理論的に説明できそうな気もします。

ギブしない人には、誰もギブしようとしない

舟津:ある程度は説明できると思います。ゲーム理論的な説明をするならば、そうした損得だけを考える生き方が非合理だと言える理由もあるはずです。そもそも、そういうゲームのルールで動いている人に、誰も愛を与えませんよね。

勅使川原:あっ、ほんとそうだ。

舟津:そうなんですよ。みんなが「何かを与えてくれないならやらない」と思っていたら、誰も動かない。最初に誰かがギブしないと始まらない。このことに、もっと気づくべきなんです。

勅使川原:ウーン!

舟津:とある先生は、学会のシンポジウムで共同研究について「うまく進めるコツのひとつは、まずは"Give, Give, Give"です」とおっしゃっていました。自分ができるものを全部与えないと共同研究なんか成立しないよ、というメッセージだと理解しています。そういうことを、義理堅いと言うのかなと。

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