なぜ若者はキャリアに不安を持っているのか 「成果主義」ではなく「貢献主義」で捉え直す社会

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舟津:おそらくマクロの話と個人の話があって、まずマクロの話でいうと、会社側がすべきことってあると思うんですよね。たとえばいまや神話といわれるかもしれませんが、終身雇用をする、つまり最後まで面倒見るという制度は象徴的です。私たちはずっと雇うつもりでいるからって言われたら、雇われている側はやっぱり余裕が出るじゃないですか。もし、余裕が出すぎて働かない社員がいるとしても、それは必要悪。そういう社員も許容して得られるものが余裕なんで。

舟津 昌平(ふなつ しょうへい)
舟津 昌平(ふなつ しょうへい)/経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師。1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

逆に、肥大化した人件費をいかに減らすかということのみに企業が力を入れているとしたら、若い人は絶対に気づくと思うんですよ。そしたら会社への信頼はなくなりますよね。会社は余裕がないんだなって思っちゃって、それは企業に跳ね返ってくる。

勅使川原:たしかに、包容力と真逆ですもんね。そうした中で、社員に対してリスキリングを求めたり、自律的なキャリア形成を強調しているとしたら、「あなたをずっと見るつもりはないよ」というメッセージと捉えられても仕方ない。

舟津:まさに。これは日系企業ではなく、外資系企業の方のお話ですが、最近は新入社員研修でさっそくキャリア研修があるそうです。入社時点から他のところへ行くのもあなたのキャリアだと言われたら、「この会社にいちゃいけないの?」と疑問を持ってしまいますし、若手社員にとって余裕のなさにつながってしまいます。でもこれって、企業の余裕のなさの表れでもあるんですよね。

勅使川原:それはその通りだと思います。

利益を人に還元しない日本企業

舟津:財務的に見ると、日本企業の現金預金、利益剰余金、経常利益率の3つ全部、15年ぐらい右肩上がりなんですよ。儲かっているにもかかわらず、企業がリスクを取ることを恐れ、積極的な投資や社員への還元を行わない。企業が余裕を失い、ますます内向きになっている証拠だと思います。

バブル崩壊のトラウマが影響しているのかもしれませんが、今の日本の企業は財務的に余裕があるはずなのに、その力を発揮できていない。財務はよくなっても、経営がよくなったわけではない、という話になってしまいますよね。

勅使川原:大企業が内部留保を貯め込んで、それを積極的に活用していないとすれば、どこかでしわ寄せが出そうにも思いますが。

舟津:最近のニュースの一端から読み解くと、大企業が取引先や従業員に負荷をかけることで成り立っている利益構造という側面はあるかと思います。

勅使川原:権力勾配ありきなんですね。その力関係が前提にあるとしたら、利益をもたらす限りは面倒を見るという条件付きの承認にすぎないと。それは、余裕のない社会という話ともつながるような気がします。そうか、あくまで条件付きの愛なんですね。

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