自分を肯定する情報だけを正しいと思う人の結末 考えを修正できる人とできない人とで広がる格差
勅使川原:えーっ、そうなんだ。1人、2人じゃなく。それはコメントで読み取れたんですか。
舟津:ええ。そういう人は少なくない印象を受けました。私の本に限らず、ですね。たとえば、会社を変革するうえで「社内の抵抗を和らげてやりくりする」という本に対して、「抵抗を無視しないと変革はできない」と信じる人たちは、その本に低評価をつけるんです。
気持ちはわかるし、実際に反対派を排除してうまくいくこともあるとは思うんですよ。でも、その人自身の信念は絶対に揺らがないので、信念に合う本ならいい本だと言うし、合わなければダメだと言うわけです。読書の手間をかけて、思い込みに近いことをただひたすら強化している。
勅使川原:違う視点を取り入れていないんですね。セルフエコーチェンバーだ。
舟津:まさしく。自給自足でエコーチェンバーできるという。信念を強化するためだけに読書をしている。読書って賢くなるためにするものなのに、まったく賢くなれていない。
かつ、やっぱりエコーチェンバーという言葉がこれだけ浸透するように、SNSやネットメディアって、もう自己強化の場になってるじゃないですか。車に例えるなら、車輪が歪んでいて、歪んだままに自己強化を重ねて現実の路線からずれていく車と、フィードバックできてまっすぐ走れている車とで、二極化が起きるというか。つまり、自分の考えていることを修正できている人と、できずに自己強化していく人との二極化。
われわれは都合のいい欲望を肯定してほしい
勅使川原:うわー、ほんとそうだ。ディストピアですね。もちろん、書き手側の努力も必要だとは思いますが、レビューを見ていると、わかんない部分は飛ばして、わかったところだけを都合よくつなげて理解している人もいるように思うんですよね。これもファスト化の影響かもしれませんが。
舟津:そうですね。以前、鳥羽和久さんとの対談で、われわれは都合のいい欲望をかなえたがるようになった、という話をしました。世の中はますます、あなたの都合のいい欲望を認めてあげますよ、というビジネスであふれているので。
勅使川原:ああ、そうか。共感とかまでいやらしく言わなくても、肯定されたいんだ。あなたは間違っていない、頑張ってると。
舟津:そうです。気持ちはわかるんですよね。やっぱり自分の考えを否定されるのって誰でも嫌ですし、逆に、そのとおり、あなたは真理に気づいていますね、って言われるとすごく気持ちがいいです。もちろんそれを支えるロジックが雑すぎると、さすがに嬉しいとはならないかもしれませんが、都合よく、あなたは正しくて他の人が間違っている、みたいな本がより好まれている。