自分を肯定する情報だけを正しいと思う人の結末 考えを修正できる人とできない人とで広がる格差

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舟津:おっしゃるように、シンプルにすることで、たとえば組織のスローガンをはっきり言い切ることで、みんなが団結できることはある。ただ、それ以外の可能性をちゃんと踏まえていないと、それはリスクになりうる。

勅使川原:そういう意味では、『Z世代化する社会』はすごく現実的な本だなと思いました。Z世代の映えとか、ハレの日のようなものではなく、ごくふつうの日常に徹底的にこだわっているように読み取れました。そこから出てくる結論は、もしかすると理想論じゃないか、と言う人もいるのかもしれないけど、そうした反応ってものすごく現実的なものを見せられたときのものなんじゃないかなと思うんです。

舟津:たしかに、現実的であることはかなり意識しました。学生たちや若者は、基本的に私に気を遣って演技する部分があると思うんです。でも、そうじゃない素の部分も見たい。演技されると、いろいろな誤解を招きますから。

たとえば、若者がものすごくお行儀よくしていると、若者の未来は明るいと思い込むし、逆に無能を演じて相手を上機嫌にさせることもできます。そういう意味では若者は賢いし、演技ができるんですよ。だから、「最近の若いやつはダメだ」と決めつけるのもフィクションなんです。私は、できるだけそのフィクションを剥いで、真実の姿を書きたかった。

「先生がいると、学生は正直に答えないですよ」

勅使川原:その姿勢はすごく表れていると思います。目次で言うと、私が一番好きなのは、「面接で猫を抱く」というところですね。わかりやすさを重視すると、このエピソードを抜いてしまう人もいると思います。若者のしたたかも含めて多角的に描くと、ぶれるとか、わかりにくくなるとか言われることもありますが、それをちゃんと拾っているところに舟津先生の意志というか、覚悟のようなものを感じました。

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舟津:実はこの話、卒業した学生たちの卒論がベースで、本人らの協力と許諾を得て私が論文にまとめ直したものが出典なんです。で、調査する際に私が直接聞き取りしようかと言ったら、学生たちは嫌がったんですよ。先生が来るとみんな正直に答えないんじゃないかって。それで友だちに聞くような感じで、素のままを引き出したんです。そしたら、猫を抱いていたとか、友だちが部屋にいたとか、そういうリアルなエピソードが出てきました。

勅使川原:それは稀有な調査になりましたね。

舟津:真の若者像は一種類だけしかなくて、その一種類を自己強化するように、エビデンスがありました、やっぱりそうでした、とは書けないと思ってて。だからこそ、突然ニュアンスの違った話も入れたんですよね。人によっては、わかりにくいからやめてくれとか、どっちなんだって聞きたくなるような話を。

勅使川原:でも、どっちもなんですよね。

舟津:本当にそうなんです。どっちも事実である。

※ピラハ族の出典:MIT News「https://news.mit.edu/2008/language-0624」

(8月28日公開予定の第2回に続く)

勅使川原 真衣 組織開発コンサルタント

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てしがわらまい / Mai Teshigawara

1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。ボストンコンサルティンググループやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は2023年紀伊國屋じんぶん大賞第8位に。既著に『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)、最新刊は『職場で傷つく』(大和書房)。だいわlog.「組織のほぐし屋」、朝日新聞デジタルRe:Ron「よりよい社会と言うならば」、論壇誌「Voice」(PHP)などで連載中。

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舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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