自分を肯定する情報だけを正しいと思う人の結末 考えを修正できる人とできない人とで広がる格差

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舟津:そうなんですよ。勅使川原さんの問題意識でいえば、「能力とはこういうことで、このテストで完璧にスコア化できますよ」と言った瞬間、能力とは別のものになっているし、理解を離れているんですよね。そういうツールにはもちろん意味もありますけど、完璧でないことを理解しないと、それを絶対視する傾向が強まってしまう。

舟津 昌平(ふなつ しょうへい)
舟津 昌平(ふなつ しょうへい)/経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師。1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

勅使川原:ご著書でも、現代社会に対する処方箋を出されてはいますが、ないよりはましだから書きました、ってただし書きがありますね。そこの潔さが特にかっこいいと思いました。

舟津:その点はすごく悩みました。現代はYouTubeやTikTokに象徴されるように、強い効果音と刺激的なサムネイルで引きつける「アテンション・エコノミー」がますます強まっています。強くてわかりやすい答えが要求される。だから本書でもやはり何らかの「答え」を示す必要はあると思ってはいて、ときに強い言葉を使わないといけない。「三行でまとめてくれ」という人にもこれがポイントだ、とわかるように。

ただ、そうすると「何々が重要という話『しか』書いていない」と受け止められることもある。読者の要望すべてには応えられないのです。だからこそ、ある読者の方に「小さな子どもが見ているYouTubeのように刺激的な映像で伝えるのではなく、丁寧に畳みかけてくる」と言っていただけたのがとても嬉しかったです。

ファストに伝わらない「知の形」のよさ

勅使川原:若者を論じた本って、「今の若者はこう」「だから、こう接するべき」みたいにさっさと結論を出すことが期待されるジャンルだと思うんですよ。逆に、丁寧に畳みかけているという感想は、きちんと読まないと絶対に出てこない。そういうふうにじっくり読んでくれる人がいらっしゃるのは、希望が持てますね。それに、発売から結構時間が経っていると思いますが、いまだに売れている印象です。

舟津:これは本を出してみての気づきなんですが、知り合いの本だとか、自分がものすごく興味があるという本でない限り、買った本っておそらく1カ月ぐらい経ってから読みますよね。4月に出た本をお盆に読んでいる人もたくさんいるはずです。

勅使川原:たしかに。私もそうです。

舟津:もちろん、すぐに読むこともあると思うんですけど、普通はそうじゃない。だとすると、自分の思ったことが詰め込まれた本が他の人に伝わったり、反響が生まれたりするには、実は最低で2、3カ月はかかるんですよね。全然ファストじゃない。でもそれが、あるべき知の形だとも思うんです。

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