自分を肯定する情報だけを正しいと思う人の結末 考えを修正できる人とできない人とで広がる格差

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勅使川原:それ、すごくわかります。私の友人におそらく誰もが聞いたことのある商品や企業のキャッチコピーを考えた人がいるんですけど、5秒で言えるコピーを5秒で考えていると思っている人があまりに多すぎるっておっしゃっていました。本来、書くこと・考えることと同じくらい、ないしはそれ以上に読み取るって大変なことなんですよね。

勅使川原 真衣(てしがわらまい)
勅使川原 真衣(てしがわら まい)/組織開発コンサルタント 1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。ボストンコンサルティンググループやヘイグループなどのコンサルティングファーム勤務を経て、独立。教育社会学と組織開発の視点から、能力主義や自己責任社会を再考している。2020年より乳がん闘病中。著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は2023年紀伊國屋じんぶん大賞第8位に。既著に『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)、最新刊は『職場で傷つく』(大和書房)。

舟津:元々、アウトプットってインプットに長い時間をかけて生まれるものなんですよね。研究論文はその最たる例です。1つの論文を書くのに1、2年は絶対にかかります。国際的にも著名なある先生は、「この論文は9年寝かせた」とおっしゃっていましたし、そういうことってざらにある。だから、何もしていないように見える人が実は悪戦苦闘していて、次の年に2、3本ポンポンと論文を出すことも当然あるんですよ。

という意味では、もちろん性質の違いが当然あるとはいえ、YouTubeは強いサムネイルと派手な効果音で瞬間的に伸びることが重要なコンテンツです。それは理解できるし、そこで勝負している人たちもいる中で、出されてから10年後くらいに「こんなこと言ってた人がいたんやな」って受け取られるメディアや知の形も存在するほうが健全だと思うんです。

勅使川原:ほんとうにそうですね。本書の中にも、アウトプットの価値が過剰に持ち上げられているという指摘がありましたね。わかりやすくガクチカをまとめるみたいなのとか。それって、結局空っぽのコミュニケーションですし、空虚な成長、自己実現もそうなのかなと。

インプットが地味すぎてみんなやりたがらない

舟津:たしかに、アウトプット過多になっている部分があるんですよね。学者はよく「インプットしないとアウトプットなんか出ないよ」と言いますけど、最近は誰にも見えないインプットは地味すぎて、みんなやりたがらない傾向があると感じます。今では、インプットも全部見せるようになっていますね。こんな本を読みました、こんな勉強をしましたって。

勅使川原:本当に。この風潮が続いちゃうと、格差を助長するような気がしてるんですよね。というのが、目に見えるものだけがリアルだと信じすぎている人と、そうじゃないことに気づいている人との差。気づいている人は、とことん影練、影勉しているのかなと。杞憂ですかね。

舟津:いや、わかります。強い言葉を使うと、まともに考えられる人とそうじゃない人の差がものすごく開いていく。これも本を出して気づいたこととして、本や記事のレビューとかコメントとか、最初はチェックしていたんです。読むのしんどいので、もうやってませんが(笑)。そこで気づいたのが、自分の説を補強するためだけに本や記事を読んでいる人がいることです。

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