日本銀行の独立性を殺したのはいったい誰なのか 歴史に禍根を残すことになった「8.7内田会見」

✎ 1〜 ✎ 100 ✎ 101 ✎ 102 ✎ 103
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかし、これは大いに禍根を残した。レッテルは除去されるはずもなく、間違った歴史認識「日銀の利上げが株を暴落させた」ということは、もはや世間の記憶に永遠に記録されてしまった。

その一方で、したたかな政治家と市場の投機家たちは「日銀は圧力をかければ動く。株価変動、為替変動で金融政策の見通しをころころ変える」という弱みを握ったのだ。

実際に、日銀は「そんなことはない」と否定しようが、今後は市場と政治の圧力に屈しないと心に誓おうが、いったんそういう認識で絡まれるようになったら、もう正直で健全な側は圧力と絡みに歯向かうことはできない。

「現在と未来の日銀」で重い負債を返済するのは困難

今後、日銀が利上げできなくなり、大きく金融政策の修正が遅れるか、あるいは、勇気をもって利上げした場合には「話が違う」と市場の投機家に徹底的に攻め込まれる。市場を混乱させたのは投機家なのに、それを観察した政治家、メディア、そして「世間」は「また日銀がやらかした」と責め立てるだろう。

そして、この根本的な要因を作ったのは、デフレ脱却をキャッチコピーにしたアベノミクス、つまり政治であり、それを実行してしまった異次元緩和にあるのであり、現在の日銀執行部でないのだ。しかし、すべての尻ぬぐい、責任を負わされるのは現在の日銀であり、今後将来にわたって未来の日銀がこの負債を返済していくのである。

しかし、この返済は難しい。今後、財政の問題があるうえに、中央銀行もこれで身動きが取れないとなれば、政府も日銀も死んでしまうかもしれない。

少なくとも、独立性は死んだ。殺したのは、過去の日銀か、今回の記者会見か。いずれにせよ、日銀による独立性の自殺なのである。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事