防衛省によると富士重工は、今回の412EPI改良型は最低でも民間市場で150機程度、すなわちUH-Xの調達予定数と同じくらいの機数、あるいはそれ以上の販売が国内外の市場で可能であるとしている。防衛省側は第三者のコンサルタントに依頼してこの目論見を検討し、計画は手堅く実現性は高い評価をした。第三者の評価を取り入れたことは評価するが、はたしてそれほど売れるだろうか。
実際問題として412EPI改良案は市場的には魅力が乏しい。そもそも原型であるUH-1の初飛行は50年代であり、すでに60年ほど経っている。当然ながら設計思想は古く、近代化しようにも限界がある。しかも今回の改良は事実上トランスミッションを改良してエンジン出力を向上させるだけで、技術的な目玉は存在しない。
また412やその派生型が多数存在し、米国のみならず、人件費の安いインドネシアなどでも多くのモデルが生産されている。このためシリーズ内部でもシェアの喰い合いが想定される。412EPIの改良型を調達するなら国内で生産するより、むしろ輸入の方がはるかに安価だ。412EPIの改良型が150機以上も売れるというのは筆者には極めて楽観的に思える。またこの案は独自の技術開発が少ない分、わが国のヘリ産業に技術的な進歩や技術移転もほとんどもたらさない。さらには日本メーカーが耐空証明や型式証明をとる機会も得られない。
川崎重工案のメリットは大きかったはず
川崎重工案の場合、仮に生産目標が600機、採算分岐点が300機だとしよう。事実上のランチカスタマーである陸自の要求の150機で、採算分岐点までの1/2が埋まる。また開発費も一部防衛費から出されるために、純然たる民間機として開発するより、かなり軽減されるし、実際の採算分岐点はさらに低くなる。実は防衛省ではUH-Xをベースにし、OH-1、AH-1Sの後継機種となる軽攻撃・偵察ヘリ構想されていた。調達数は最低でも60機程度にはなっただろう。これも加えればUH-Xファミリーの生産は200機を超える。つまり採算分岐点まで2/3以上を陸自需要だけで賄える。また、国策として国内の警察や消防、海保などにも採用させれば更にリスクは低減できる。技術的にも得るものが多かった。
しかもパートナーであるエアバスヘリは世界最大のヘリメーカーであり、営業力が世界中で強い。つまり新規開発としては極めてリスクが低いプロジェクトだ。おそらくX9は第二のBK117(川崎重工とエアバスヘリ共同開発)となり、世界の市場でこの先数十年は売れる機体となっただろう。当然ながら陸自が調達するパーツ代などもコストが大きく低減されたはずだ。川崎重工はBK117に加えて、新たな民間ヘリのポートフォリオを加えられ、防衛省外の売上が増え、よりヘリメーカーとして自立することが可能となる。少なくともその機運が生まれただろう。
軽攻撃・偵察ヘリ構想について過去形で書いたのは、富士重工案の412EPI改良案ではその可能性がまったく無いからだ。「富士重工案の採用で、軽攻撃・偵察ヘリ構想は白紙だ。これはあくまで新型機の開発を前提の話であり、そうであれば多少サイズは大きくてもUH-Xの派生型として開発、調達する意義があった」(防衛省調達関係幹部)。新型機ならば数が増えればそれだけメンテナンスや維持費も安くなる。また国内メーカーの市場進出への援護射撃にもなる。だが既存機のマイナーチェンジならばその必要はない。もっと小型の既存ヘリで十分だ。
つまり、富士重案を選んだことで、UH-Xを原型とした軽武装ヘリの開発・調達の目は無くなったといえるだろう。防衛省の担当者は否定するが、富士重工案が選ばれた理由にオスプレイの採用の影響が考えられる。陸自は現中期防で17機のオスプレイを調達するがその経費は約3,600億円と見積もられている。平均して毎年、900億円の予算が必要だ。陸自のヘリ調達予算は約300億円程度に過ぎず、その約3倍であり、この額は極めて巨額である。
17機のオスプレイの調達後もヘリと比べて極めて高いとされる維持コストが必要だ。このため現在あらゆる部門でオスプレイ(更には水陸両用装甲車AAV7)などの高額な新装備の調達のあおりを受けて、予算の獲得が難しくなっている。陸幕がUH-Xの開発、調達コスト削減を一番に考えたのは、オスプレイ調達の影響がある可能性は否定できない。
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