次期ヘリに富士重工を選定したのは間違いだ

やはり世界市場の動向を見ていない

今回のUH-X選定のキモは、防衛省や経産省関係者に取材した限り、まず民間用ヘリの開発を海外メーカーと行い、その民間型流用によってより少ない開発、生産コストで安価に自衛隊向けの汎用ヘリを開発する。同時に、内外のヘリ市場で売れる民間型の販売を通じて国内ヘリ産業の自立を促進し、振興する。民間型が売れれば、自衛隊型も量産効果により調達単価やパーツや維持費も大きく下がることが期待できる。つまり、防衛費をスプリングボードとして売れる民間ヘリを開発しよう、その果実は防衛省も味わえる、というものだった。

実際に、防衛省の調達関係の幹部は「既存機の改良と新規開発では、前者がコストや納期、リスク管理では圧倒的に有利だ。だがUH-Xでは新規開発が不利にならないように手配りをしていた」と述べている。だが川崎重工の経営トップは、そのような防衛省の意図やサインを読み間違えていたようだ。「ベル・ジャパンや富士重工の役員クラスは頻繁に防衛省を訪れ、真摯に対応したが、川崎重工の役員クラスは来ずに、技術担当ばかりがやってきた。またマネジメントレベルで真摯に防衛省側の疑問に答える姿勢が見られなかった」(同)。

事実、特に今年3月以降、富士重工の航空事業とベル・ジャパンのトップマネジメントは頻繁に市ヶ谷詣を行い、起死回生にかけてきた。だが川崎重工はこれを斟酌せずに、いつもの装備調達と同じ感覚でコンペに望んだ。つまり防衛需要が主であり、民間機開発は「おまけ」、あるいは方便であるという感覚があったように思える。

UH-Xとはどのような機体であるべきか

UH-Xの詳細は関しては筆者の「川崎重工は「世界のヘリメーカー」になれるか」を参照していただきたい。

この記事で筆者は以下のように述べている。「筆者は川崎重工に期待していると述べたが、トップメーカーである川崎重工に、三菱重工がMRJを立ち上げたのと同じように、自社のヘリビジネスを自立したビジネスとして育てよう明確な意志とビジョンをもっているかがカギになる。それがなく『国営企業体質』が抜けないのであればヘリビジネスの自立化は難しい」。そのような懸念が、まさに現実となったように思える。

川崎重工のオウンゴールという面は否めないが、それでも既存機のマイナーチェンジである富士重工案を選んだのは、ヘリ産業の自立と産業振興という面では大きなマイナスだ。

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UH-X開発評価結果(防衛省提供)

結果を見れば既存機の改良型であった富士重工案が有利だったとように思えるが、既存機と新規開発機を同じ土俵で比較することがおかしい。

同じ土俵であれば、開発費やリスクに関しては改良型の方が有利なのは明らかだ。防衛省は既存機の改造案と、新規の開発を同列では評価していないと主張しているが、陸上幕僚監部では調達時期と、開発費、運用コストをより少なくすることが重視されたようだ。耐空証明や型式証明を取るためのコストや時間も既存機ベースの方が圧倒的に有利だ。富士重工案がより早期に調達可能としているが、川崎重工案でも防衛省の示した時期までの開発、納品は可能とされていた。

確かに富士重工案はリスクが少ないし、UH-1Jと同じフレームコンポーネントを多用しているために、ユーザーである陸自は既存の設備である程度流用でき、陸自での導入もより短い時間で可能となるだろう。このため短期的に見た場合のコストは安い。

だが「国内生産・技術基盤への寄与」や、「国内外の民間市場への展開」といった評価項目で富士重工案が高い評価を得ているのは理解できない。新規技術の開発も技術移転も期待できず、すでに陳腐化が進んでいるUH-1ベースの機体は、本来不利なはずである。だが計画の具体性であれば、既存機体の改修である富士重工案の方がより、具体的な計画を提示できる。

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