次期ヘリに富士重工を選定したのは間違いだ やはり世界市場の動向を見ていない

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川崎重工案を選べばヘリメーカーの統合・再編が進む可能性もあった。UH-Xの契約が獲得できなれば富士重工のヘリ部門は新規へのヘリ生産がなくなり、事業を継続することが困難となる。であれば、3社あるヘリメーカーが2社となり、将来のわが国のヘリメーカー再編に途をつけることになっただろう。

川崎重工案はヘリメーカーの統合再編が進む可能性

だが、富士重工が契約を獲得したことによって、今後もわが国の「国営ヘリ産業」は不毛な「三国志」状態が続くことになる。だがそれは税金の浪費に過ぎない。国内ヘリメーカーは防衛省需要に寄生しており、BK117を除けば国内民間市場はもちろん、海保や警察、消防などの市場でもほぼゼロだ。しかも3社で同じような開発費を投じている。日本全体で投資できる開発費用を3分の1ずつ使って、各社少ない予算で同じような研究開発を行っている。開発者の層も薄い。これでは世界の市場で戦っていけない。

安倍首相は武器輸出には熱心で海外でトップセールスまで行っている。だが、あまりに「商売」が下手で、「武士の商法」だ。インドへの飛行艇US-2や、英国への哨戒機P-1、オーストラリアへの潜水艦などと見込みが薄い、あるいは政治的、外交的なハードルが高く実現が困難な「ビッグビジネス」に力を入れている。US-2や潜水艦の売り込みのために防衛駐在官をインドやオーストラリアに増員したが、所詮「軍人」が商人のまね事をしてもうまくいかない。

その反面、地味だが、これらよりよほど確実性があるUH-X選定の興味は薄かったようだ。本来UH-Xは新規開発のみ、既存機の改良にしても大幅改良で、既存機と大きなアドバンテージをもつ機体という条件をつけるべきだった。

わが国の防衛航空産業は政治的な意図や戦略と、現場レベルの戦術の調和と整合性がとれていない。また防衛大手企業も輸出に打って出て自立をしようという意識が低い。これでは防衛航空産業の輸出が成功することは極めて難しいだろう。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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